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瞳をとじて

死ネタ注意です
超短編、SSSくらい短いです
僅かにパパタベ、結婚済要素あり。

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朝目覚める度に、隣から声が掛かる気がして、ほんの少しだけ待っている。
そう。ほんの少しだけ。




今日もまた、落胆と自嘲の笑みを浮かべて身じろいだ。

朝が来た。

寝て、起きて、
次の日が始まることに、何の感慨もない。

隣に手を伸ばして、冷たいシーツの上を撫でてみる。


(えへへ、おはようございます)


隣から声が掛かる気がして、ほんの少しだけ待っている。
来る日も来る日も、ありもしないことに期待をして。
いつの間にこんなに弱くなったのだろう。

彼女が病に倒れたのは、一年ほど前のこと。
子どもがちょうど5歳の誕生日を迎えた日のことだった。
奪わせて堪るものかと、手を尽くしたつもりだった。
だが、瞬く間に時間は過ぎた。
無力だった。



( 幸 せ だ っ た ? )

やっとのことで喉から絞り出した声で、訊ねる。

一緒に生きようと決めたとき。
子どもができたと知ったとき。
事あるごとに、訊ねた。

怒ったような笑顔で「幸せに決まっている」と言われた。
いま思えば、幸せであることが、怖かったのかもしれない。
いつか来る喪失が怖くて、まだ失っていない、と確かめたかったのだ。
ガキのように、置いていかれるのが怖かったのだ。

小さく溜息をついて、重い身体を起こすと、勢い良く窓を開けた。
温もりを含んだ春の風。
朝目覚める度に、おはようと笑った輪郭を思う。
一足先に起きて、コーヒーの匂いを纏って戻ってくる彼女を待って。
先に目が醒めても、寝たふりをして。


*****

我慢せんでも、ええんやで
隣の部屋から、小さく声がした。ぼんやりとした頭でそれを聞く。

(なかないよ)

ほう、それはまた、なぜ?

(だって、おとうさんもなかなきゃだめなの)

うん?

(おかあさんがいなくなって、わたしはわんわんないたけど)

(おとうさんはずっとせなかをぽんぽんしてくれたよ)

そうか

(じゃあおとうさんはどうしたらいいの?)

(わたしがないてたら、おとうさんはいつ、ないたらいいの)


*****

自分が酷く歪んだ表情をしているのが分かる。
どういう表情をしていいのか分からない。

病室で苦しむ時ですら、彼女は幸せだと言った。
あなたは、しあわせですか。
答えを知りながら、したり顔で訊く顔を思い出す。

ああ、畜生。幸せに決まっている。
思い返すことすべて、忘れたくない。失くしたくない。
確かに、幸せだった。




音もなく目から零れた言葉を聞く者は、いない。

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