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  <title type="text">Novel</title>
  <subtitle type="html">小説をちまちまうｐしていきます</subtitle>
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  <updated>2012-01-14T11:48:03+09:00</updated>
  <author><name>ゆにこ</name></author>
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    <published>2012-03-12T01:01:22+09:00</published> 
    <updated>2012-03-12T01:01:22+09:00</updated> 
    <category term="よんアザ＞SS" label="よんアザ＞SS" />
    <title>瞳をとじて</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[死ネタ注意です<br />
超短編、SSSくらい短いです<br />
僅かにパパタベ、結婚済要素あり。<br />
<br />
-----------------------------------------------<br />
<br />
朝目覚める度に、隣から声が掛かる気がして、ほんの少しだけ待っている。<br />
そう。ほんの少しだけ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
今日もまた、落胆と自嘲の笑みを浮かべて身じろいだ。<br />
<br />
朝が来た。<br />
<br />
寝て、起きて、<br />
次の日が始まることに、何の感慨もない。<br />
<br />
隣に手を伸ばして、冷たいシーツの上を撫でてみる。<br />
<br />
<br />
(えへへ、おはようございます)<br />
<br />
<br />
隣から声が掛かる気がして、ほんの少しだけ待っている。<br />
来る日も来る日も、ありもしないことに期待をして。<br />
いつの間にこんなに弱くなったのだろう。<br />
<br />
彼女が病に倒れたのは、一年ほど前のこと。<br />
子どもがちょうど5歳の誕生日を迎えた日のことだった。<br />
奪わせて堪るものかと、手を尽くしたつもりだった。<br />
だが、瞬く間に時間は過ぎた。<br />
無力だった。<br />
<br />
<br />
<br />
(　幸　せ　だ　っ　た　？　)<br />
<br />
やっとのことで喉から絞り出した声で、訊ねる。<br />
<br />
一緒に生きようと決めたとき。<br />
子どもができたと知ったとき。<br />
事あるごとに、訊ねた。<br />
<br />
怒ったような笑顔で「幸せに決まっている」と言われた。<br />
いま思えば、幸せであることが、怖かったのかもしれない。<br />
いつか来る喪失が怖くて、まだ失っていない、と確かめたかったのだ。<br />
ガキのように、置いていかれるのが怖かったのだ。<br />
<br />
小さく溜息をついて、重い身体を起こすと、勢い良く窓を開けた。<br />
温もりを含んだ春の風。<br />
朝目覚める度に、おはようと笑った輪郭を思う。<br />
一足先に起きて、コーヒーの匂いを纏って戻ってくる彼女を待って。<br />
先に目が醒めても、寝たふりをして。<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
我慢せんでも、ええんやで<br />
隣の部屋から、小さく声がした。ぼんやりとした頭でそれを聞く。<br />
<br />
(なかないよ)<br />
<br />
ほう、それはまた、なぜ？<br />
<br />
(だって、おとうさんもなかなきゃだめなの)<br />
<br />
うん？<br />
<br />
(おかあさんがいなくなって、わたしはわんわんないたけど)<br />
<br />
(おとうさんはずっとせなかをぽんぽんしてくれたよ)<br />
<br />
そうか<br />
<br />
(じゃあおとうさんはどうしたらいいの？)<br />
<br />
(わたしがないてたら、おとうさんはいつ、ないたらいいの)<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
自分が酷く歪んだ表情をしているのが分かる。<br />
どういう表情をしていいのか分からない。<br />
<br />
病室で苦しむ時ですら、彼女は幸せだと言った。<br />
あなたは、しあわせですか。<br />
答えを知りながら、したり顔で訊く顔を思い出す。<br />
<br />
ああ、畜生。幸せに決まっている。<br />
思い返すことすべて、忘れたくない。失くしたくない。<br />
確かに、幸せだった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
音もなく目から零れた言葉を聞く者は、いない。<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>ゆにこ</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>yunico.side-story.net://entry/8</id>
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    <published>2012-01-23T00:25:21+09:00</published> 
    <updated>2012-01-23T00:25:21+09:00</updated> 
    <category term="よんアザ＞孤独の王" label="よんアザ＞孤独の王" />
    <title>King of Solitude</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<a href="//yunico.side-story.net/File/kingof.png" target="_blank"><img alt="" border="0" src="//yunico.side-story.net/Img/1327245873/" /></a><br />
<br />
<br />
ひたすら消そうとしたもの。<br />
満たされなかったもの。<br />
足りなかったもの。<br />
<br />
諦めたようでいて、本当は探し続けたもの。<br />
答えは思いがけずもたらされた。<br />
<br />
気がつけばいつの間にか、あの飢餓感を忘れていた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「うっせェんだよクソが！！！」<br />
<br />
芥辺は既に青くぐったりしているアザゼルの首を握り締めると、鬼の様な握力でギリギリと絞めつける。<br />
そのまま腕を振りかぶって投げつけると、ぐしゃ、と卵の潰れるような音を立てて壁一面に飛び散った。<br />
<br />
パソコンで報告書の整理をしていた佐隈は<br />
昨日掃除したばかりなのに&hellip;と面倒くさそうにぼやく。<br />
<br />
<br />
「&hellip;すっかり通常運転じゃないですか」<br />
ソファにちょこんと腰掛けて緑茶を啜り、怪訝そうな顔でぼやくベルゼブブ。<br />
<br />
窓の外は、痛いほど青く澄みきった冬晴れの空。<br />
薄く曇ったガラスをつう、と雫がつたう。<br />
<br />
「なんだかなァ&hellip;」<br />
その横で溜息をつきながら、光太郎はかりんとうを頬張る。<br />
交互に佐隈と芥辺とを見る。茶を飲む。前と何か違うような。<br />
かりんとう私にも寄越しなさい、と<br />
ベルゼブブにヒレで腕をぺちんぺちんと叩かれながら、二人をじっと観察してみる。<br />
<br />
台所から持ってきたゴム手袋を嵌めて、欠片を集めだす佐隈。<br />
良いよ放っておいて、と言う芥辺に、そんなわけにもいかないでしょー、と答えて<br />
雑巾で飛び散ったものを拭き取り、バケツの中に絞り出す。<br />
<br />
小さく鼻で溜息をついて、所長席の革椅子に腰掛ける芥辺。<br />
読みかけの歴史小説を手に取ると、相変わらずの仏頂面でページを捲る。<br />
<br />
あ、やっぱりねーちゃんのことチラチラ見てる。<br />
<br />
「アザゼルさーん。右腕もげてますよーはいこれ。」<br />
飛び散った肉片から微妙に復活を果たしたアザゼルに腕を渡し、<br />
佐隈はバケツに集めた肉片を戻してやる。<br />
<br />
不定期にぱらぱらと聞こえる紙擦れの音。<br />
あーあ、おっさんそんなところだけはダダ漏れだな。秘密主義者の癖に。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
<br />
(----あのね、さくまさん。)<br />
<br />
<br />
芥辺は手元の小説を捲りながら、<br />
先日の自宅での、さくまとのやり取りを思い返していた。<br />
<br />
少し翳り始めた陽が、自室のカーテンの隙間から何度も何度も目を刺した。<br />
それを少し鬱陶しく思いながら、芥辺はさくまの後頭部を掴み、顔を近づける。<br />
ふ、と佐隈が息を呑むのが彼には分かった。<br />
<br />
真っ直ぐに自分を見つめる緑色の目。<br />
遥か上空を行く旅客機の音が、締め切った筈の窓越しに僅か聞こえる。<br />
確りと見詰めたまま交わされる視線。<br />
何時もは自分の心に平穏を齎すはずの静けさが、何故か心臓をざわめかせた。<br />
<br />
<br />
<br />
(----少し長い話を、聞いてくれないか。)<br />
<br />
<br />
<br />
佐隈にしか届かないほど小さく擦れた声。<br />
一度出しかけた声を、飲み込みそうになる。<br />
まさか自分が、戸惑い、躊躇うとは。<br />
<br />
何に於いても自分の意思のみで物事を決定し、思惑通りにならないものは切り捨てた。<br />
いままでそんな風に生きてきた自分がいま、彼女にだけは許されたいと思っている。<br />
<br />
自分自身が滑稽で滑稽で仕方がない。<br />
ただただ口元から漏れるのは、自嘲の笑みだった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
<br />
「なァなァさくー、」<br />
やっと元の姿に近いところまで回復したアザゼルは、佐隈のズボンの裾を引っ張りながら言う。<br />
<br />
「なんかおじさんにゆーとらんことあるんちゃうのん」<br />
「は？何がですか」<br />
<br />
アザゼルはするすると足元から腰へ、腰から胸元へ、胸元から肩へとよじ登る。<br />
自席で小説を読んでいる芥辺と、佐隈とを交互に眺め、なんかあったやろ。そう耳元で囁く。<br />
そして彼女を舐めるように観察して言った。<br />
<br />
「見えへんなァ。&hellip;なんや。まだやったんか。」<br />
さくまは、何を言っているのか分からない、と言うように首を傾げた。<br />
やってへんならまだワシにもチャンスあるやん、と言った瞬間に、彼女の顔がじわじわ赤くなる。<br />
<br />
「初めてはワシが貰うて前々から言うてたもんなー」<br />
機嫌よさそうにニヤニヤと笑って言った瞬間、脳天にグリモアがめり込む。<br />
「いい加減黙らないと制裁の呪文唱えますよ！」<br />
普段は淡々と制裁を加える佐隈が、かなり狼狽して上擦った声で捲くし立てる。<br />
なるほど、最近光太郎とベルゼブブがチラチラと二人を観察している理由はこれか。<br />
<br />
<br />
「それグリモアで殴ってから言うセリフちゃうやん&hellip;」<br />
アザゼルは思わず頭から噴出する出血をそのままにつっこんだ。<br />
<br />
<br />
「ハァ、懲りませんね彼も&hellip;」<br />
「勘付いてるよなゼルさん&hellip;めんどくさ」<br />
かりんとうを齧りながら、二人並んで座り傍から眺めている光太郎とベルゼブブ。<br />
光太郎は、軽く溜息をついた後、面倒くさそうな声でぼやいた。<br />
<br />
「まあアザゼル君のことですから、能力をわざわざ行使せずとも、ピンと来るものがあったのかも知れませんね」<br />
ベルゼブブは緑茶を啜りながら、眠たそうな目を更に細めて言う。<br />
いつもにも増して佐隈にちょっかいを出しているアザゼル。<br />
アザゼルはおそらく、佐隈に気がある。ベルゼブブも光太郎もこの点に関しては同意見だった。<br />
<br />
「ゼルさんも結果分かってる癖に何でねーちゃんにちょっかい出すかなァ」<br />
モゴモゴと口を動かし光太郎はうんざりしたように目を伏せた。<br />
<br />
「彼の絶対的に足りない脳味噌では仕方のないことです」<br />
光太郎にそう言って、ベルゼブブは短いヒレをいっぱいに伸ばし、テーブルの上のかりんとうを取る。<br />
<br />
騒々しく騒ぐアザゼルと佐隈を、溜息交じりに見る。<br />
そして、芥辺はと言えば。何事もなかったかの様に小説を読んでいる。<br />
<br />
「&hellip;おいアザゼル」<br />
「なななななあなんでっかァ？！」<br />
「うるせェ。黙れ。」<br />
<br />
彼は視線を手元の小説に落としたまま、ページを捲る。捲る。<br />
つい先ほどまでアザゼルにからかわれて大騒ぎしていた佐隈は、小さく安堵の溜息をついて自席に戻る。<br />
<br />
虚勢も張れずに引き下がるアザゼルを見て、二人は内心深く彼に同情した。<br />
相手が悪かった。あの大魔王相手に、敵うはずもない。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
さくまは、黙って聞いていた。<br />
芥辺は、ひとつひとつ、言葉を絞り出すように話をする。<br />
<br />
殆ど何もない芥辺の部屋。<br />
壁に凭れて、二人並んで座っていると、<br />
窓から僅かに差し込む陽の所為か、彼はひどく眩しそうな顔をした。<br />
<br />
話はあまりにも突飛なものだったが、何故だかするすると受け入れられた。<br />
身の回りで信じられないことが起こり過ぎて、感覚が麻痺しているのかも知れなかった。<br />
何かを思い出すように吐き出される彼の声が、ひどく辛そうに思えたからかも知れない。<br />
<br />
子どもの頃のこと。<br />
数えるほどしか会話を交わしたことのなかった両親のこと。<br />
ひとりきりでひたすら、ひたすら、書物を読み漁っていたこと。<br />
初めて悪魔を召喚したときのこと。<br />
死ぬことができない、呪いのこと。<br />
いくら書物を読んでも拭えない飢餓感。<br />
<br />
(アクタベさん。どうして私に話したんですか。)<br />
<br />
チラと見れば、彼は真っ直ぐに前を見ていた。<br />
さくまもまた、それを見て真っ直ぐに前を見た。<br />
段々と翳ってくる陽が、カーテンの隙間を縫って目を刺すので、思わず目を細める。<br />
<br />
(どうして、話そうと思ったんですか。)<br />
<br />
表情の乏しい彼の顔は、冷えた陽光に照らされていた。<br />
窓ガラスは結露で潤んで、ぼろぼろと涙を流しているようだった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
<br />
少年はひとり、暗い部屋でページを捲る。<br />
しゅる、しゅる、と響く音は、静けさを余計に感じさせるだけだった。<br />
部屋の扉が開いていることは知っていた。だが、出て行ったところで何になるというのだろう。<br />
<br />
彼は、それで満たされることはないと思った。<br />
無駄な期待をしたところで、自分の飢餓感を満たすものなどありはしないのだ。<br />
ならば自分の力で探す他にないじゃないか。<br />
<br />
荒れてぼろぼろになった手では上手く捲れない。上手くいかずに何度も何度も手放してしまう。<br />
苛立って、手にしていた書物を勢いよく床に投げ捨てた。<br />
喚び出した悪魔たちが好奇の目で彼を睨めつける。<br />
彼らを蹴飛ばし、投げつけ、踏み潰す。そうしたところで全く気分は晴れなかった。<br />
<br />
足りない足りない足りない足りない足りない、<br />
寒い寒い寒い寒い寒い寒い、<br />
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、<br />
<br />
声にならない声を上げた。<br />
やり場のない怒りで、耳鳴りがする、吐き気がする。<br />
耳を塞いでも治まらないそれに、頭が破裂しそうだった。<br />
目を見開いて、煩い、煩い、と呟いても、それは治まるどころか強くなるばかりだった。<br />
<br />
<br />
----------<br />
<br />
<br />
&hellip;&hellip;誰かが呼ぶ声がして、ふと、少年は顔を上げた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
<br />
(---------あのね、さくまさん。)<br />
<br />
さくまは芥辺を見つめた。<br />
芥辺は、深く深く溜息をついた後、目を伏せて息を呑む。<br />
そして、真っ直ぐ前を見た。喉がひどく乾いた様に感じるのは、おそらく気のせいではない。<br />
<br />
<br />
(---------俺はね、君が、ずっとここに居たらいいのにと思ってる。)<br />
<br />
芥辺は手持無沙汰な手を温めるように擦った。暖房は入れてあった筈なのにひどく寒いのだ。<br />
絞り出すようにして声を吐く。それは喉に貼りつくようで、上手く形にならない。<br />
<br />
さくまは彼の言葉の真意を取りかねて、怪訝そうな顔をする。<br />
芥辺は手を組んだり、解いたりしながら、ぽつりと呟いた。<br />
<br />
(------生きていて欲しい、ずっと。そう思っていることだけは、知ってて欲しい。)<br />
<br />
俺の言いたいこと、わかる？<br />
さくまを見て、芥辺は困ったような顔をした。<br />
こんなことを伝えるのは、得意じゃないんだ。そう言って溜息をつく。<br />
<br />
<br />
<br />
(---------つまりね。)<br />
彼から視線を離すことが出来ずに、さくまは膝を抱える。<br />
<br />
<br />
(---------俺はもう、独りにはなりたくないんだろうと思う。)<br />
<br />
芥辺はひどく平坦な声で呟いて、窓の外を見た。その目は虚ろに陽を映す。<br />
さくまは、スン、と鼻を鳴らして、目を伏せる。<br />
<br />
どうして泣かないんですか。そんなに寂しそうな顔をするのに、なんで。<br />
抱えた膝に顔を伏せるとまた、彼の声が降ってきた。<br />
<br />
<br />
(残酷な事を、求めてるって分かってる)<br />
<br />
---------一度選んだら、この先、泣いても喚いても戻れないから。<br />
どんなに辛かろうと、痛かろうと、逃げたかろうと。終われない。<br />
そんな道に、自分と同じ道の上に、さくまを引き込もうとしているのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
(すぐに答えて欲しい訳じゃない。ただ、俺がそう思っていることだけは、知ってて欲しかったんだ。)<br />
<br />
遠くで踏切の音がしている。締め切った窓を超えて聞こえてくるそれは、やけに耳に響いた。<br />
<br />
<br />
(&hellip;アクタベさん、どうしてわたしにそれを話したんです)<br />
さくまは、芥辺の袖を強く掴んだ。離さないように。強く、強く。<br />
彼ならば、黙って逃げ道を閉ざし、他の選択肢を奪うこともできた筈だった。<br />
わざわざ同意を得て、意思確認などしなくても。悪魔使いの道へ引き入れた時のように。<br />
<br />
(わたしがもしも、嫌だと言ったら、あなたは。)<br />
<br />
<br />
ほんの少し、身体をずらして、彼に近づいた。<br />
肩が触れ合って、温度を感じる。彼が僅かに震えていることに気づく。<br />
ああ、この人でも怖いと思うことがあるんだ。それは、さくまをひどく安心させた。<br />
<br />
「アクタベさん。」<br />
<br />
なに、と答えるように、彼の腕がピクリと動いた。<br />
さくまはそっと、頭を彼の肩に預けて目を閉じる。<br />
<br />
<br />
寒いときには寒いって、言ってください。<br />
わたしにだって、肩を温めることぐらい、できるんですよ。<br />
ねえ、アクタベさん。<br />
<br />
さくまは、ただ一言、温かいでしょ。と言う。<br />
ふ、と笑った様な声を耳元で聞いて、へへへ、と微笑んだ。<br />
<br />
そしてそっと、恐る恐る近づくように、顔を寄せ合った。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
「さくまさんさくまさん、今日のイケニエは何ですか？」<br />
「さくー、おやつ買うてーアイスー」<br />
足元に纏わりつく悪魔二匹に、さくまはやれやれと息をついて席から立つ。<br />
<br />
「ハイハイ、この前ベルゼブブさんが食べてみたいって言ってたルーで<br />
ちゃんとカレー作りますよー。あ、そういえばお肉無かったや。肉なしでもいいですか？」<br />
「何言ってんですかビチグソ女。手抜きは許しませんよ」<br />
歯を剥き出しながら、ヒレでさくまの脛をペチペチ叩くベルゼブブ。<br />
<br />
「さくー、アイスはー？」<br />
「こんな寒い時期にアイスなんて食べるんですか？」<br />
ふくらはぎをつついてしつこく聞いてくるアザゼルを払いながら言う佐隈。<br />
呆れた、という調子で尋ねる佐隈に、アザゼルはチッチッ、と顔の前で指を振る。<br />
<br />
「わかっとらんなーさくちゃん。冬に暖房が効いた部屋んなかで食べるんがオツなんやないかー」<br />
「もう、しょうがないなー。アクタベさーん、ちょっとスーパー行ってきていいですか？」<br />
<br />
芥辺は腕時計をちらりと眺めて、机の上に無造作に小説を置き、ゆっくりと立ち上がる。<br />
「別にいいよ。&hellip;俺もちょっと出てくるから。」<br />
「あ、今日も寒いですから、ちゃんと上着着ないとだめですよ！」<br />
<br />
うん、と答えながら素直にコートを羽織るのを見て、満足そうに佐隈は笑った。<br />
芥辺が荷物の整理を始めたのを見て、彼女は自らも自席の背もたれに<br />
掛けてあったコートを身につけて、鼻唄交じりに支度をする。<br />
「アザゼルさん、ベルゼブブさんも！ちゃんとあったかくするんですよー」<br />
そしてパソコンの電源を落としながら、留守番おねがいね、と光太郎を振り返る。<br />
<br />
「へーい。」<br />
光太郎は面倒くさそうに、頬づえをついて返事をした。<br />
<br />
悪魔二匹も小さい身体でわたわたとマフラーを巻く。<br />
ベルゼブブはヒレの様な両腕で器用に身につけて、隣のアザゼルを優越感に浸った、自慢げな目つきで見ている。<br />
<br />
「&hellip;じゃあ、行ってくる」<br />
手早く準備を済ませて、アタッシュケースを手に取ると、芥辺は扉に手を掛けた。<br />
<br />
アザゼルのマフラーを巻くのを手伝っていた佐隈は、顔を上げて彼を見る。<br />
ぎゅうぎゅう締めつけているために、アザゼルの首から上が青くなってきていることにまだ気づいていない。<br />
<br />
「アクタベさん！」<br />
<br />
名前を呼ぶ声に、芥辺は少しだけ足を止めた。<br />
光太郎はやれやれといった風に頬づえをついて、冷えた緑茶を啜る。<br />
佐隈はいつもの緩い笑顔で笑って、言った。<br />
<br />
<br />
「いってらっしゃい！」<br />
<br />
芥辺は黙って立ち止まっている。<br />
外を向いている芥辺の顔は、事務所の中にいた佐隈たちには見えなかった。<br />
開きかけた扉からは、凍るほど冷たい風。首に巻いたマフラーに手を掛けて、彼は思う。<br />
<br />
なるほど。確かに温かい。<br />
<br />
<br />
「&hellip;&hellip;うん。行ってくる。」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
<br />
昔々のこと。少年は暗い暗い部屋のなかで、ひたすら書物を読み漁っていた。<br />
それは、ただただ、飢餓感を埋めるため。<br />
<br />
何かが足りなくて、それを埋めるように、<br />
手が荒れてぼろぼろになってもなお、読み続けた。<br />
<br />
積み重ねられ、ぼろぼろになった、部屋を埋め尽くすほどの書物。<br />
いまはもう、主のないその部屋。<br />
無造作に置かれたままの一冊が、ぱらぱらと風に捲られていく。<br />
<br />
開いたままの扉。彼はそこには、もういない。<br />
<br />
その名を呼ばれて、出て行った。<br />
<br />
<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>ゆにこ</name>
        </author>
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    <id>yunico.side-story.net://entry/7</id>
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    <published>2012-01-23T00:24:12+09:00</published> 
    <updated>2012-01-23T00:24:12+09:00</updated> 
    <category term="よんアザ＞孤独の王" label="よんアザ＞孤独の王" />
    <title>WANNA BE A HAPPY WARRIOR</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<a href="//yunico.side-story.net/File/wanna.png" target="_blank"><img alt="" border="0" src="//yunico.side-story.net/Img/1327245791/" /></a><br />
<br />
&quot;悪魔使いは幸せになれない&quot;なんて<br />
いったい誰が決めたんでしょうね。<br />
<br />
わたしが幸せかどうかなんて、他の誰にも決められないでしょ？<br />
ねえ、わたしはいま、<br />
<br />
だって、<br />
わたしはいま、<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「ねえ、なんか最近アクタベさんの様子おかしくね？」<br />
<br />
「なんです急に」<br />
光太郎の発言に、ベルゼブブは紅茶を飲みながら答えた。<br />
<br />
冬の、ある日曜日の午後。<br />
所長とバイト不在の芥辺探偵事務所では、居候の光太郎と悪魔たちがカードゲームに興じていた。<br />
<br />
「せやせや！気を逸らせて勝と思たってその手には乗・ら・へん・ぞー」<br />
言って、アザゼルは手札を場に捨てていく。<br />
<br />
「おやおや可哀想に、このワタクシに勝てないと思って&hellip;」<br />
「何だよ別にそんなんじゃねーよはい赤ァー！」<br />
手札を捨ててニヤニヤ笑ってくるベルゼブブにイライラしつつ、光太郎も手札を捨てる。<br />
<br />
「なんや色替えとかセコイ手使いよるのォ」<br />
<br />
「コータロー俺もやらせろ」<br />
光太郎の肩の上から猿が羨ましそうに覗き込む。<br />
「グシオンお前ルール覚えてねェだろが！ゲッ、俺一番アガリに近かったのに！！<br />
ゼルさんそれ2枚取るやつだろまとめ出しすんなってー！」<br />
<br />
「ククク甘いですねェ、私も持ってるんですよ大人しくプラス8枚持って行きなさい」<br />
ニタァ、と非常に悪どい笑顔で「+4」と書かれた札を捨てるベルゼブブ。<br />
<br />
「うっわひでぇ何ソレ二人してイジメかよ！」<br />
<br />
「これが戦略と言うものですよ少年。さァさァ青にチェンジですよ！」<br />
ぶつぶつ言いながら山札からカードを引く光太郎を<br />
ベルゼブブはヒレでぺちぺち叩いて「早くしろってんだよオラァ！」と口汚く急かす。<br />
<br />
「くそー、後で覚えてろよー！！」<br />
<br />
<br />
「そういや、アクタベはんの調子がおかしいてどーいう事や」<br />
どこがやねん、とアザゼルは手札を矯めつ眇めつしながら言う。<br />
<br />
「ここ最近召喚されてませんでしたからね」<br />
場合によっては芥辺を出し抜くチャンス、とばかりに興味津々に聞く悪魔二匹。<br />
(グシオンはボケっとしながら耳を掻いている)<br />
<br />
「ああうん、俺もさぁ、はっきりとはわからないんだけどさ」<br />
自分の手札を捲りながら、空中を見つめる光太郎。<br />
「なんかさー、普段と違って自分にイライラしてる感じ？」<br />
<br />
「「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;ブハッ」」<br />
<br />
「や、俺も！俺もさあ、おかしいとは思うよ！？」<br />
吹き出す二匹にむくれて口を尖らせる。<br />
<br />
「ないわー、そーれーはないわー！」<br />
「あのアクタベ氏が！自分に！プッ」<br />
<br />
「はいはいわかりましたわかりましたァ！もーいいよ」<br />
ゲラゲラと笑い転げる二匹に言って、光太郎は次に出す手札を吟味する。<br />
手元に置いた茶をすする。薄い。さくまが不在なので銘々に適当に入れたものだ。<br />
<br />
最近のアクタベさんの様子見てたら、きっとこいつらだっておかしいって言うと思うんだけどな。<br />
やっぱりさくねーちゃん絡みなのかなあ。確実にあのおっさん、ねーちゃん好きだもんなあ。<br />
<br />
待てよ。さくねーちゃん絡みで、自分にイライラ。<br />
&hellip;つーことはなんですか。もしかして恋のお悩みでモダモダしてるとかですか。<br />
まさかなー。あの鬼畜で唯我独尊なおっさんがか。<br />
うわー&hellip;何だろうこの鳥肌。<br />
<br />
「あー&hellip;&hellip;」<br />
<br />
「なんやねん」<br />
「全くです」<br />
ひとりで百面相している光太郎を、鬱陶しそうに見るアザゼルとベルゼブブ。<br />
「やー、心配するほどのことでもないよな。考えてみれば」<br />
<br />
何だか気に掛ける事すらバカバカしくなってきた。<br />
もし自分の考えが当たってたとしたら。<br />
リア充爆発しろ！とぐらい、叫んでやりたい。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
(何で断らなかったんだろうわたしぃぃぃ&hellip;！)<br />
<br />
光太郎と悪魔たちがゲームに興じているのとと大体同じ頃。<br />
とあるマンションのエントランスに、オートロックの前で頭を抱えているさくまの姿があった。<br />
教わった部屋番号のメモを握り締め、パネルのボタンを押そうとしてはみるものの、どうにも踏ん切りがつかない。<br />
<br />
わたしはただ家事をレクチャーしに来ただけだよ、うん。<br />
そう自分に言い聞かせるさくま。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
(ゆみちゃんやっぱりダメだよ～)<br />
<br />
ひゅうひゅう、と苦しい深呼吸をしても、一向に楽にならなかった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「えっ、絶対行った方がいいって！」<br />
<br />
そんなチャンスなかなかないじゃん！<br />
時は少し戻って土曜日の午後。大学にほど近い、最近雑誌で話題の喫茶店。<br />
いきなり上がった大声に、他の客の視線が一気に集中する。<br />
<br />
「ゆ、ゆみちゃん！！声！声がでかい！」<br />
<br />
あ、ゴメン。思わず立ち上がっちゃった。てへ。<br />
さくまの制止に小さい声で謝ってから、席に着くゆみ。<br />
<br />
「だけどさ、さくまさん、ほんとだよ？せっかく誘ってくれたんだから、ここは行っとかなきゃ！」<br />
ガラス製のティーポットから紅茶を注ぎつつ、うんうんと頷いて言うゆみ。<br />
彼の部屋に行くならオシャレしてかないとだねー。<br />
<br />
「ち、違うよ？！そんなんじゃないよ？だって付き合ってなんかないし！上司と部下だし！<br />
顔は怖いし！鬼畜だし、意地悪だし！かなり自分勝手だし！」<br />
<br />
昨日だって、いつ来るの？なんてからかってくるし！<br />
皿の上に乗った人気のケーキをフォークでつんつん突きながら、さくまは延々とまくしたてる。<br />
<br />
あらら。ひどい言われよう。ところでさくまさん、楽しみにしてたケーキ、粉々になっちゃうよ。<br />
<br />
「ふぅん。でも好きなんだよね？」<br />
そう尋ねると、彼女はガチャン、と手に持ったフォークを落とした。<br />
「誘われたからって、好きでもない人の部屋に行くの？」<br />
耳まで真っ赤にしてプルプル震えだしている。<br />
<br />
さくまさん、わかりやすいなあ～。<br />
<br />
「好きだなんて言ってないよ！」<br />
うんうん。分かってる。言われてないもん。さくまさんみてたら分かるよ。<br />
<br />
「ふふふ、さくまさんは可愛いなあ」<br />
言って、ゆみはゆったりと紅茶を飲む。<br />
<br />
さくまの話の中に、時々登場するバイト先の上司。<br />
さくま曰く、鬼畜上司だとか。部下に物凄く厳しくて、怖い人らしい。<br />
それはもう、怒っている彼をみて震えてちびりそうになる者もいるほどだとかで。<br />
<br />
だが、さくまから伝え聞く彼の行動や言動から、<br />
彼女を特別に思っているだろうことが、ゆみには容易に想像がついた。<br />
<br />
「好きなら、一気に接近するチャンスだよ？」<br />
「いや、でもわたしがどんな家に住んでるか気になるみたいな発言しちゃったからで！<br />
説明するより実物見せたほうが早いとか、きっとそういうことだよ！」<br />
<br />
おお。上司さんはアクタベさんっていうのね。初耳。<br />
ねえさくまさん、好きでもない子に家においでなんて言わないよ。<br />
ゆみは心の中でこっそり嘆息した。<br />
<br />
さくまさん結構可愛いのに。今までどんだけフラグ折って来たんだろ。<br />
苦労してますね、アクタベさん。<br />
ああ、確実に両片思いっぽいじゃない。もうちょっとなのにね。<br />
<br />
「さくまさん！これから一緒に買い物いこ！丁度アクセサリーのバーゲンやってるとこ知ってるの！<br />
趣味が良くて可愛いやつ、一緒に見つくろってあげるから！」<br />
「ちょ、ゆみちゃん？！」<br />
急にガタッと音を立てて立ち上がるゆみに、驚いて目を丸くするさくま。<br />
<br />
見ていてすごいもどかしいから、応援したくなっちゃうんだよね、この子。<br />
好きだって分かったなら、押して押して押しまくらなきゃ！<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
エントランスで悩み初めて15分以上経った頃。<br />
<br />
(ああああ仕事だと思えばいいじゃないりん子！ここまで動揺する必要ないじゃない！)<br />
思わず大きな溜息をついて、オートロックのパネルに手をつき俯くさくま。<br />
前日にゆみから「頑張ってくるんだよ！」と言われながらプレゼントされた、<br />
シンプルなネックレスが首元でゆらゆら揺れる。<br />
<br />
(ただボタンを押せばいいだけじゃない～)<br />
<br />
「&hellip;&hellip;何してんだ」<br />
気がつくと私服姿の芥辺がすぐ側に立っていた。<br />
襟ぐりの大きく開いた細身の黒のニットに、土埃色のパンツ。<br />
<br />
「うわっっっ！！」<br />
色気のない声を上げて飛び退くさくま。<br />
<br />
「びっくりしたぁぁ！」<br />
「&hellip;&hellip;時間になっても上がって来ないからだろうが」<br />
教えた番号忘れたの、と聞きながらパネルに鍵を挿して扉を開ける芥辺。<br />
<br />
「いや、そ、そう言う訳ではなかったんですが&hellip;スミマセン&hellip;」<br />
「&hellip;&hellip;ふぅん。」<br />
<br />
のそりと歩いて行く芥辺に付いて歩くさくま。<br />
「&hellip;少し、心配した。」<br />
<br />
「え&hellip;？あ&hellip;」<br />
エレベーターのボタンを押しながら言う彼の顔は、さくまには見えない。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;なにかあったのかと思った」<br />
ぽつりと呟いた背中を見る。目がちかちかした。<br />
心臓が跳ねた瞬間に、ドアは閉まる。何と答えていいか思いつかずに、さくまは赤くなって俯いた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「&hellip;此処。」<br />
芥辺がぼそりと言って示したのは、606号室。<br />
シンプルな黒い扉。名前を入れていない表札。芥辺が鍵を回して扉を開くと、少し重めの音がした。<br />
<br />
「おじゃましまーす&hellip;」<br />
恐る恐る玄関に入る。革の匂いがした。<br />
「わぁ、いっぱい持ってるんですね、革靴。」<br />
さくまは靴箱に並ぶ革靴の数を見て言う。<br />
「まあ、私服を着る機会もあまりないしな。スーツに合わせるとなると、結果的に。」<br />
<br />
靴箱のすぐ近くにあったクローゼットには、<br />
先日一緒に買いにいったコートとマフラーが綺麗に掛けられていた。<br />
思わず頬が緩み、唇が弧を描く。妙に嬉しくなって、頭を軽く掻いた。<br />
<br />
入って、と促されて慌てて廊下を進み、辺りを見渡してみる。<br />
<br />
勝手なイメージで、結構散らかっているかもしれないと思っていたが<br />
かなり片付いている、&hellip;&hellip;というよりも殺風景な部屋だった。<br />
<br />
机と、ローテーブルと、ベッド。広めの部屋に、ぽつん、とそれだけ。テレビすら置いていなかった。<br />
机の上にはいつも事務所に持ってきているアタッシュケース。<br />
そして、彼がいつも使っている携帯電話。<br />
<br />
「結構片付いてるんですね&hellip;」<br />
「特にあまり必要なものもないしな。特別なものは事務所に置いているし<br />
仕事に必要なものは大体そのケースの中で事足りる。」<br />
<br />
ボンヤリと、遠くを見るような目で答える芥辺の顔。<br />
<br />
「そっか&hellip;」<br />
小さく呟いて、さくまは彼の視線の先を見た。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
昔々の話。不老不死の孤独の王は、自らの死を装って国を捨てた。<br />
<br />
賢王と呼ばれ、国を繁栄させ、平和に統治し敬われた彼の治世。<br />
彼の知恵を頼って人々は昼も夜も絶え間なく、彼のもとを訪れた。<br />
<br />
<br />
-----賞賛。名声。栄光。嫌悪と侮蔑の中で生きた少年時代とは逆転した境遇。<br />
彼は、始終側に悪魔どもを従えていた。そして、人々に囲まれていた。<br />
それでも、彼には何かが足りなかった。<br />
彼の知恵を以てしても出ない答えがあった。<br />
<br />
失った死と言う終着点。<br />
延々と続くであろう生。<br />
そして、茫洋とした孤独。<br />
<br />
何とかして出口が欲しかったのかもしれない。<br />
<br />
豪奢な上着を捨て、代わりに粗末な外套を。<br />
重たい冠を捨て、暑い砂漠を行けるように、頭には布を巻き。<br />
僅かな路銀と、駱駝に乗せられるだけの水と食料。<br />
身軽になって、何処までも行けば、何か見つけられる気がした。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
「いいなああ、こんなに広いキッチン&hellip;！」<br />
どう考えても殆ど使った痕跡の無いキッチン。<br />
<br />
「うわあ、こんな大きいシンク羨ましい&hellip;！」<br />
シンクの縁をさすって、いいないいなと繰り返し呟くさくま。<br />
「もったいないなあ、使ってないでしょう、これ。」<br />
<br />
わあ、コンロ4つ口もある！調理スペース広いなあ！わ、オーブン据え置き型だ！<br />
これならカレー作りながら他の料理も楽々作れるなあ、いいなあ。<br />
と、さくまはくるくる動き回りながらキッチンをいじる。<br />
<br />
「&hellip;そんなに羨ましいもの？」<br />
はしゃぐさくまに半ば呆れた様に尋ねる芥辺。<br />
「そりゃあもう！これだけのスペースあれば好きなだけ料理できますよ！」<br />
「&hellip;ほんとに料理好きなんだな」<br />
芥辺は手持ち無沙汰そうに両手をポケットに突っ込み、彼女の行動を後ろから見た。<br />
<br />
「だって、どうやったら美味しくなるかとか、綺麗に仕上がるかとか、考えるの楽しいですよ！<br />
工夫すればお金を節約できますしね。」<br />
うわ、調味料も塩コショウしか置いてない、油は置いてないんですか、あ、お醤油は辛うじてあった。<br />
などと、さくまは楽しそうにぼやく。<br />
<br />
「あっ、すみません、調子に乗ってつい人の家の台所勝手にいじっちゃった」<br />
「別に。全く使ってないのも事実だし」<br />
言われて、へへ、とはにかむさくま。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;使えば」<br />
「へっ？」<br />
「別に使ってもいい。俺は使わん」<br />
「ほんとですか？！おお、何作ろう！材料要りますねー」<br />
<br />
後で買いに行きましょうかー、と機嫌が良さそうなさくま。<br />
「費用はアクタベさん持ちでおねがいしますねー！」<br />
「&hellip;ハイハイ」<br />
「何にしましょうね。いつもカレーばかりだし、和食のほうがいいですか」<br />
<br />
うん、でもビーフシチューとか、洋食も作ってみたいなあ。また今度作っていいですかね。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
芥辺は、あまり大きくはない目をいっぱいに見開いた。<br />
そして一瞬、怪訝そうな顔をして目を瞬かせた。<br />
<br />
-----また今度、ね。<br />
さくまさん、自分で何言ってるか分かってる？<br />
<br />
芥辺はそう思いながら、見ていて愉快だったので、何も言わずに見守った。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
「ちゃんとカレーマン買ってくださいよ」<br />
「へーへー、分かってますよ」<br />
<br />
昼食の確保のためにコンビニに向かう光太郎とベルゼブブ。<br />
<br />
残りの二匹が昼寝を始めてしまい、叩き起こそうとしても無反応だったところに、<br />
カレーマン1つを交換条件にベルゼブブが手伝いを買って出たのだった。<br />
<br />
<br />
「まじ寒いんですけど&hellip;べーやんさんの羽毛と皮下脂肪が羨ましい」<br />
ガチガチ震えながら二の腕をさすりつつぼやく光太郎。<br />
ぶつぶつ言いながら顔を顰めつつ歩く。昼時と言う事もあってか人通りが多い。<br />
歩き難いことこの上ない。<br />
<br />
「失敬な。これは単なる仮の姿であって、体感温度とは全く関係ありませんよ」<br />
ベルゼブブは高級感ある文様の入ったマフラーをヒラヒラ靡かせて、ブブブと羽音をさせながら光太郎に付いていく。<br />
<br />
「あー&hellip;天気よくねェし、早いとこ済ませないと降るかもね」<br />
また雪になるかもなー、嫌だなあ寒いおでん食いたい。<br />
鼻をズルズル言わせ、マフラーを巻き直して光太郎は空を眺めた。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;あれ&hellip;&hellip;？」<br />
視界を雑踏に戻すと、見知った人間の姿に気づく。<br />
<br />
あれってアクタベさんじゃね？と光太郎が指差す先を見るベルゼブブ。<br />
その先には確かに、私服姿ではあるが見紛うはずもないアホ毛の男。<br />
「確かにそうですね。って&hellip;&hellip;おや？」<br />
<br />
芥辺の隣には、自分達がとてもよく見知った女性の姿があった。<br />
何事かを話しては、赤くなった顔をくしゃくしゃにして嬉しそうに笑っている。<br />
そして、二人の手にはひとつずつエコバッグが提げられていた。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
光太郎とベルゼブブは、気まずそうな顔で黙って視線を合わせる。<br />
<br />
「ねえべーやんさん。あれってさあ」<br />
「ええ」<br />
<br />
どちらからともなく深い溜息をついた。<br />
「間違いないよな」<br />
「&hellip;そうですね」<br />
<br />
しばらく召喚されない間に一体何があったんです&hellip;<br />
何でしょうねあの空間&hellip;あの花でも飛びそうなオーラは見るに堪えません<br />
そう言ったベルゼブブは砂糖でも吐きそうなひどい顔だった。<br />
<br />
「今日ってさあ、日曜日だったよね」<br />
「そうでしたね」<br />
<br />
日曜日に二人で買い物か。十中八九確定だなこりゃ。<br />
思わず額に手を当てる光太郎。<br />
<br />
「あのさあ、べーやんさん」<br />
「何です」<br />
<br />
「今の話&hellip;ゼルさんにはしないでおこうぜ&hellip;」<br />
話がややこしくなりそうだから、とげんなりして言う光太郎。<br />
「そうですね&hellip;アザゼル君のとばっちりを受けてアクタベ氏に殺されたくはありません」<br />
<br />
二人の長い長い溜息が、寒空に吸い込まれていった。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
「それにしても、アクタベさんの包丁の持ち方が怖すぎて死ぬかと思いましたよ～」<br />
どす黒いオーラ纏っててまるで殺人鬼みたいでした、と失礼な事を平気で言うさくま。<br />
<br />
「何でイキナリ逆手に持つんですか！アーミーナイフじゃないんですから」<br />
「いや何故と言われても」<br />
テーブルに並んだ料理を食べながら、芥辺はさくまに叱られていた。<br />
自分の不得手な範疇の話なので、流石の芥辺も反論できない。<br />
<br />
「野菜持つ指も伸ばしたまま切り始めるからヒヤヒヤしましたし」<br />
でもアクタベさんでも出来ないことがあるんだなと思ってなんか嬉しかったです。<br />
<br />
味噌汁を飲みながら、クスクス笑って彼女は言った。<br />
どうですか、料理した感想は。<br />
<br />
「やってみるとなかなか難しいもんだな」<br />
<br />
「ふふふ、頑張ってましたよね。魔法陣描いたり、細かい作業得意なはずなのに、プッ、見てくださいこれ」<br />
切りきれずに繋がったままの人参を、箸でつまみあげながら見せる。<br />
「ぐっ&hellip;&hellip;」<br />
「ぶっ&hellip;ぷくく、は、ぶははっ」<br />
反論できずに黙りこむ芥辺に、耐えきれずに喉を震わせて爆笑する。<br />
<br />
「ははははは、は、ああ、面白かったぁぁ」<br />
「覚えてろよ、さくまさん」<br />
<br />
少し青筋を浮かべて言う芥辺に、アクタベさんでもそんなこと言うんですね！とさくまはまた腹を抱えて笑った。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
小さい頃。少年はいつもひとりで、自室に篭って暮らしていた。<br />
屋敷に閉じ込められて、ひたすら、ひたすら、本を読み続けた。<br />
<br />
襲いかかる飢餓感を埋めるために。<br />
物足りなさを忘れるために。<br />
<br />
やがて大人になり、どんなに周囲に頼られ、慕われ、敬われようと彼はいつでも独りだった。<br />
<br />
<br />
彼の欲した答えは、決して独りでは見つけられないものだったのに。<br />
そしてそのことを彼に教えてくれるものは、誰もいなかった。<br />
<br />
誰かと生きて、初めて手に入れる答えを、<br />
彼は独りで手に入れようとして、ひどく長い間彷徨った。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
「あ。これ前にもアクタベさんが読んでた本だ。」<br />
机の上に、本が一冊置いてあった。それを手に取って、さくまはページを捲ってみる。<br />
<br />
「&hellip;本は、好きで。集めてるからな」<br />
食後、さくまが入れた茶を飲みながら芥辺は答えた。<br />
「アクタベさん、いつも色んな本読んでますもんね。」<br />
「まあな。気になったものは端から読むようにしてるから」<br />
<br />
さくまが手に取った本は、色褪せ、ぼろくなった古書だった。<br />
グリモアを読み解くための関連書籍の様なもの。<br />
<br />
その巻頭には、こう記されていた。<br />
&quot;悪魔使いは、幸せにはなれない&quot;と。<br />
<br />
<br />
「ねえアクタベさん。」<br />
「なに」<br />
さくまは、ボンヤリとページを繰りながら尋ねた。<br />
<br />
「&quot;悪魔使いは幸せになれない&quot;なんて、誰が最初に言い出したんでしょうね」<br />
<br />
「&hellip;さあな。」<br />
「この本を書いた人の感想なのかな」<br />
「どうだかな。こういった類の本には、時々そんな語句が書かれてる」<br />
言って、芥辺は近くのクローゼットの中に数冊置いてあった同種の本を捲る。<br />
<br />
アクタベさんも、以前同じことをわたしに言いましたよね。とさくまは言う。<br />
「そうだな。経験上も、歴史上も、幸せになった者の話など聞いたことがない」<br />
<br />
それを聞くや、彼女は怪訝な顔をして言う。<br />
「でもそれって、なんだか違うと思います」<br />
<br />
彼女の言に、芥辺は開いた本を閉じた。<br />
「何故？」<br />
<br />
「わたしが初めて、その話をアクタベさんから聞いたときね、<br />
「じゃあ私の人生なんて、お先真っ暗だ」なんて、絶望しかけたんです。でも」<br />
<br />
さくまも同じように本を閉じて、芥辺の目をみて言った。<br />
「わたしが幸せかどうかなんて、他の誰にも決められないでしょ？」<br />
<br />
<br />
「--------------」<br />
芥辺もまた彼女の目を見て、目を見開いた。<br />
すると、さくまはいつものにへら、としたゆるい笑顔を見せた。<br />
「アクタベさん。」<br />
「なに」<br />
<br />
「わたしね、自分がとても幸せだと思ってるんですよ。」<br />
心底嬉しそうな顔で言うので、芥辺は内心戸惑い、黙って話を聞いていた。<br />
<br />
<br />
アザゼルさんもベルゼブブさんも、鬱陶しいし面倒だし、特にアザゼルさんなんかセクハラばっかりだけど。<br />
わたしの作るイケニエ美味しいってみんなが言ってくれるのが、幸せで。<br />
<br />
コータロー君も人間版のアザゼルさんみたいでスケベだし、面倒だけど、<br />
何だかんだ言って心配してくれたり、慕ってくれたりします。<br />
<br />
それに、アクタベさんがいて。<br />
アクタベさんは怖くって時々謎で、自分勝手で、卑怯だったりします。<br />
だけどいつも心配してくれて、フォローしてくれますよね。<br />
<br />
きっと、これからだって大変なことなんて数えきれないほどあるんでしょうけど。<br />
みんないるから。だから、不幸だなんて思えないんです。<br />
<br />
<br />
「だから、わたしはきっと、一番最初の幸せな悪魔使いなんですよ」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「あれ、なんでわたしこんな真面目な話しちゃってるんだろう」<br />
顔を真っ赤にして慌てだすさくまを、芥辺はまじまじと見つめた。<br />
<br />
「あ、すみませんすみません！今の全然流してくれてもいいとこなんで！」<br />
<br />
「クックックッ&hellip;&hellip;」<br />
喉から笑いがこみ上げて止められない。<br />
悪魔使いの道に引き込まれてもなお、自分を幸せだとのたまう彼女。<br />
自分こそが幸せと感じているならば、不幸になどなり得ないという彼女。<br />
まさに目から鱗が落ちた様だった。<br />
<br />
<br />
「ぶっ&hellip;&hellip;く、は、ははは！」<br />
愉快で愉快で仕方がなく、芥辺は腹の底から声を上げて笑った。<br />
よもや彼女が常日頃こんなことを考えていたとは思わなかった。<br />
<br />
「あ、アクタベさん！顔！顔が怖いです！」<br />
さくまは顔を引き攣らせながら言う。<br />
<br />
「あのね、さくまさん」<br />
<br />
<br />
<br />
はい？と首をかしげるさくまの後頭部を掴み、ぐい、と顔を近づける。<br />
彼女の耳元で、彼女以外に聞こえないほど小さい声で囁いた。<br />
<br />
「------------」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
君があんなことを言うから。<br />
自分らしくないことも、少しだけ受け入れられるような気がしてくる。<br />
<br />
その先があるかもしれないと、期待してしまう。<br />
<br />
打ち明けてもいい。そう思えてしまう。<br />
言わなかった望み。自分の孤独。自分の弱さ。ひどく長い間認めてこなかったものを。<br />
<br />
大丈夫だと、思わせる何かが、そこにあった。<br />
<br />
<br />
&hellip;&hellip;君は本当に、おかしな女だな。<br />
<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>ゆにこ</name>
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    <published>2012-01-23T00:22:24+09:00</published> 
    <updated>2012-01-23T00:22:24+09:00</updated> 
    <category term="よんアザ＞孤独の王" label="よんアザ＞孤独の王" />
    <title>infection</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<a href="//yunico.side-story.net/File/infection.png" target="_blank"><img alt="" border="0" src="//yunico.side-story.net/Img/1327245702/" /></a><br />
<br />
その次の、拒絶が怖くて、喉が詰まる。<br />
いつの間に、こんなに弱くなった。<br />
<br />
上手く声が出せない。<br />
いつの間に、こんなに弱くなったんだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
額を撫でる、少し冷えた手のひら。<br />
<br />
(ここにいますよ)<br />
<br />
------------何処にも行くな。<br />
<br />
(わたしはここですよ)<br />
<br />
------------ここにいろ。<br />
<br />
<br />
<br />
腕を伸ばせども伸ばせども、届かない。<br />
自分を呼ぶその声は、こんなに近くに聞こえるのに。<br />
<br />
この声は届かない。<br />
喉が詰まる。声が掠れて上手く叫べない。<br />
<br />
<br />
<br />
------------ここにいてくれ。<br />
<br />
<br />
<br />
&hellip;懇願。<br />
なんて自分に似合わない響きだろう。それでも。<br />
<br />
失うことが怖いと知った。それを忘れることは、不可能だ。<br />
なかったことになど、できない。<br />
<br />
だが、どうすればいい？<br />
掠れた声では、呼んでもきっと届かない。<br />
<br />
何とか上手く答えなければ。<br />
<br />
掠れた声で、叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。<br />
全てが手遅れになってしまえば、もう二度と、此処から出られない。<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
ぶわ、と風を切る様な音がして。<br />
其処で奈落に落ちるように目が醒めた。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
<br />
蛍光灯の光が目を刺して、芥辺は顔をしかめる。<br />
見上げた天井の視界に、ひょい、とさくまが入ってきた。<br />
<br />
「あ、アクタベさん。起こしちゃいました？<br />
暖房で空気が汚れてきてたんで、換気しようと思って&hellip;」<br />
<br />
すみません、と彼女は謝る。<br />
<br />
「外が寒かったから、気圧のせいですかね。窓開けたらびゅうびゅう風が入ってきまして&hellip;」<br />
<br />
「ああ&hellip;」<br />
<br />
風の音だったのかと納得して、芥辺は眉間を押さえた。<br />
<br />
「&hellip;さくまさん、いま&hellip;何時」<br />
<br />
「えっと、5時ちょい前くらいですかね」<br />
<br />
「&hellip;書類整理、終わったの」<br />
<br />
「あ、はい。あとは印刷するだけ、ですよ」<br />
<br />
「そう」<br />
<br />
<br />
ひと段落ついたら、早めに上がっていいから。<br />
そう言って、身体を起こすと、掛かっていたブランケットがはらりと落ちる。<br />
<br />
「&hellip;これ、さくまさんの？」<br />
<br />
薄い黄緑色の、シンプルなデザイン。<br />
芥辺は床に落ちたそれを拾い上げながら聞いた。<br />
<br />
<br />
「あ、はい。上着も脱いでらしたんで、風邪ひかないかなあ、って」<br />
「&hellip;そう」<br />
<br />
さくまは、芥辺がその乏し過ぎる表情の中に、僅か見せた笑みを見て、微笑んだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「あ、そういえばアクタベさん！」<br />
<br />
さくまがポン、と手を叩く。<br />
<br />
「なに」<br />
「キッチンに肉じゃが置いてあるので、良かったらあとで食べてくださいね」<br />
<br />
ベルゼブブさんのイケニエのついでで申し訳ないんですけど。<br />
へへへ、と彼女は笑う。<br />
<br />
<br />
<br />
「&hellip;割り箸何処にあったっけ」<br />
<br />
のそりと立ち上がってキッチンに向かう芥辺。<br />
いま食べるんですか？とさくまがついていく。<br />
<br />
「いやウチに箸無いから」<br />
<br />
さくまは目を丸くして尋ねる。<br />
<br />
「えっ、アクタベさんってここに住んでるんじゃないんですか」<br />
<br />
あ、割り箸ここです。あと肉じゃがこれ。<br />
言いながらテキパキと割り箸を取り出し、密閉容器に詰めた肉じゃがと一緒に渡す。<br />
<br />
「てっきり事務所に住みこんでるんだと思ってました」<br />
<br />
「そんなイメージだったか」<br />
「はい、すごく」<br />
<br />
グリモアだって事務所に保管してるじゃないですか。<br />
それに夜はコータロー君だけでしょう。大丈夫なんですか？と首をかしげる。<br />
<br />
<br />
「結界内にある部屋借りてるから、反応があれば気づけるようになってる。すぐ対処出来る範囲だ」<br />
<br />
光太郎は知ってるんだがな。言ってなかった？<br />
言いながらさくまからビニールの手提げを受け取り、容器を詰めていく。<br />
<br />
きっとコータロー君とひとつ屋根の下はウザいとか思ってるな&hellip;<br />
と思いつつそこはサラッと流すさくま。<br />
<br />
「聞いてないですよー。ずるいなぁ」<br />
<br />
むくれて言う彼女に、思わずくつくつと笑う。<br />
<br />
<br />
どんな家なんだろう&hellip;意外と豪邸だったりして！<br />
&hellip;いやいや、でも家事できないとなかなか難しいかー。<br />
まさかお手伝いさんとかいたり&hellip;いやーないわー&hellip;<br />
<br />
「さくまさん」<br />
<br />
ナントカ荘とか言う名前のアパートとか&hellip;うーん<br />
それじゃあ今日のせてもらった外車とはあまりにも&hellip;<br />
<br />
「さくまさん」<br />
<br />
彼女は呼び掛けに全く気付かず、顎に手を当てて考え込む。<br />
<br />
「&hellip;オイ」<br />
<br />
イラっとしてついむんずと頬を押さえ付けた。<br />
<br />
「むふぁ！はひふるんれすかー。あふはべはん！」<br />
<br />
<br />
<br />
「&hellip;そんなに気になるなら来てみれば？」<br />
<br />
そのまま壁に押さえ付けられて、さくまは口をパクパクさせて声にならない悲鳴を上げる。<br />
<br />
「気になるんだろう」<br />
ニヤニヤと泣く子も黙る様な笑みで聞けば、みるみる顔を赤くする。<br />
<br />
「それに、家事、教えてくれるんじゃなかったの？さくまさん。」<br />
「えと、あの、ちょ、それは&hellip;！そんなつもりで言ったわけでは&hellip;なくてですね！」<br />
さくまは、予想外に生活能力の乏しかった芥辺にした約束を、今更後悔した。<br />
<br />
(変なお節介焼かなきゃよかった&hellip;！)<br />
<br />
<br />
事務所のキッチンとかでいいじゃないですか！<br />
彼女はやや涙目で言って目を逸らす。<br />
<br />
「&hellip;ふーん？」<br />
やや顔を近づけて聞けば、赤かった顔を余計に赤くした。<br />
「&hellip;！！&hellip;&hellip;！！」<br />
<br />
さくまは大声で何事か喚きながら、考えておきます！と言い残して慌てて帰って行った。<br />
ドタバタと荷物を纏め、ソファか何かに躓いたらしく、痛い痛いと言って、走っていく音。<br />
<br />
アクタベさんのバカ！！<br />
<br />
<br />
バタンと大きな音を立ててドアが閉まる、その一瞬響いた大声に、<br />
芥辺はまた、くつくつと喉を震わせて笑った。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
急に静かになって、時計の針の音が嫌に耳に響く。<br />
軽く溜息をついてから、椅子に掛けてあったマフラーとコートを取り上げる。<br />
<br />
<br />
<br />
(冬なんだから、ちゃんと温かくしなくちゃ、ダメですよ。)<br />
<br />
-----選ぶの、面倒だから。<br />
<br />
(風邪ひいちゃうじゃないですか)<br />
<br />
-----別に平気だから。<br />
<br />
(ダメです。見てるこっちが寒くなっちゃうんだから！)<br />
<br />
<br />
次から次へと試着させられた防寒具に埋もれながら半ばうんざりしていた芥辺に、<br />
<br />
(ね、この際だから買っちゃいましょう)<br />
そう言って無理矢理マフラーを巻いた彼女の顔を思い出す。<br />
<br />
胸の深いところがムズムズする。<br />
このままでいいんじゃないか。などという甘い考えが頭をもたげる。<br />
<br />
このまま何も伝えなければ。<br />
<br />
少なくとももうしばらくの間は、<br />
あのひどい飢餓感に悩まされずに済む。<br />
<br />
<br />
だが、このまま何もせず、時間が過ぎたなら。<br />
<br />
<br />
彼女はいつかここから出ていくかもしれないし、<br />
そうでなかったとしても、いつ居なくなるかなんて分かったもんじゃない。<br />
人の命なんて、儚いものだ。<br />
失うのが早いか遅いか、ただそれだけ。<br />
<br />
<br />
何も伝えなければ。<br />
いつか失うときが来ることだけは、確定的だった。<br />
<br />
その時、自分は耐えられるのか。<br />
背筋が凍るような感覚に息を呑む。<br />
<br />
つまるところ、自分は彼女が居なくなれば平静を保てない。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
意味もなく腹が立ち、思い切り屑箱を踏み潰す。<br />
プラスチック製の屑箱は音を立てて粉砕し、飛び散った。<br />
<br />
「チッ&hellip;&hellip;初めてのガキじゃあるまいし」<br />
<br />
いちいち反応を気にして、自分の所為で傷ついたりしないか不安になる。<br />
最初は彼女にだって一切容赦しなかった癖に。<br />
今更何だというのか。いままでならば、側に置きたいのなら、<br />
さっさと手に入れてしまえばそれでいいと、そう思ったはずだ。<br />
有無を言わせず術を行使し、一切の逃げ場をなくしてしまえば、それで済むと思っていた。<br />
永遠にそばに置きたいのなら、<br />
&quot;死ぬ&quot;という選択肢を奪い、隣に置いておけばそれで良かったはずだ。<br />
<br />
その時彼女はもう二度と、自分に笑いかけたりはしないだろう。<br />
<br />
二度と。<br />
<br />
<br />
二度と。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
一体何があるというんだ。<br />
<br />
泣かれるのは怖いなどと思う自分。<br />
あまりにも滑稽過ぎて。<br />
まるで自分が自分でなくなったように思えてくる。<br />
<br />
段々酷くなっていくこの自分らしくない考え方が気に食わない。<br />
まるで、何か悪い病気のような。<br />
<br />
「バカみてぇだな」<br />
<br />
俯いて自分にしか分からない程度に苦笑する。<br />
飛び散らかった屑箱の残骸と、ただただひたすら同じ速度で進む時計の音。<br />
<br />
芥辺は深く溜息をつき、目を伏せて革張りの事務椅子に腰掛けた。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
昔、少年はひとりで気が遠くなるほどの時間を膨大な書物に囲まれて過ごした。<br />
広い屋敷、大勢の召使い。財と権力を欲しいままにし、<br />
そして彼には一切興味を示さなかった両親。<br />
<br />
彼は一人だった。<br />
足りない何かを埋めるために、爪が折れても、<br />
両手が荒れて血が滲んでもまだ、書物を読み続けた。<br />
ひたすら、ひたすら。<br />
<br />
足りないものが一体何なのか、教えてくれるものは誰もいない。<br />
<br />
<br />
悪魔と魔導書を話し相手に過ごし、<br />
繰返し繰返し召喚を繰り返すうちに、手を出した儀式によって死ねなくなった。<br />
<br />
それからしばらくたったのち、世界中を巡り歩いた。<br />
足りない何かは、自分の力で埋める事ができると。<br />
<br />
世界は思ったより広くはない。<br />
何を見ても、何を聞いても、結局つまらなくなって、興味を失う。<br />
何処へ行けども人間は愚かだ。<br />
<br />
それでもひたすら、足りない何かを求め続けて、此処まで生きた。<br />
誰かに寄り掛かったりすることなど一度もせず、<br />
ただ自分ひとりの足で立って。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
光太郎が戻ってくるのを待ってから、芥辺は事務所を後にした。<br />
部屋の片付けを指示すると芥辺の思った通り鬱陶しい反論が返される。<br />
<br />
少しは自分で片付けろよな！<br />
ぶつぶつ文句を言う彼をを脅し、いいからやれと脳天をギリギリと握り潰す。<br />
ギャアギャアと喚く光太郎をようやく解放すると、不審そうな顔で言った。<br />
<br />
「あのさ、アクタベさん&hellip;&hellip;なんかあったの？」<br />
<br />
<br />
<br />
暗くなった道を黙々と進む。<br />
絶え間無く行き交う雑踏と、ざわめく声。声。声。<br />
底冷えのする空気の中で赤く光る無数のテールライト。<br />
<br />
吐き出した白い息は、暗く淀んだ曇天の夜空に吸い込まれる。<br />
首に巻いたマフラーの感触が、自らの存在を主張する。<br />
片手に持った軽いはずの手提げが、妙に重たい。<br />
<br />
見上げた空は星ひとつなく、明るい街のネオンで濁り<br />
何処にも逃げ場のない迷路の様に、どこまでもぽっかりと口を開けていた。<br />
<br />
<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
<br />
<br />
<br />
答えなんて分かるはずもない。<br />
いつから俺は、こんなに弱くなったんだ。<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>ゆにこ</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>yunico.side-story.net://entry/5</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://yunico.side-story.net/%E3%82%88%E3%82%93%E3%82%A2%E3%82%B6%EF%BC%9E%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E3%81%AE%E7%8E%8B/hide%20and%20scream" />
    <published>2012-01-23T00:20:44+09:00</published> 
    <updated>2012-01-23T00:20:44+09:00</updated> 
    <category term="よんアザ＞孤独の王" label="よんアザ＞孤独の王" />
    <title>HIDE AND SCREAM</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<a href="//yunico.side-story.net/File/hide.png" target="_blank"><img alt="" border="0" src="//yunico.side-story.net/Img/1327245597/" /></a><br />
<br />
寂しいとは、<br />
言ってくれなくてもいい。<br />
<br />
ただ、わたしがここに<br />
いることで満たされるのなら。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
初めにその視線に、気がついたのはいつのことだっただろうか。<br />
つい最近だったかもしれないし、結構前のことだったかもしれない。<br />
<br />
事務所でアザゼルさんやベルゼブブさんに<br />
からかわれながら騒いでいる時。<br />
<br />
コータロー君や小山内君に<br />
手伝ってもらいながらお茶の支度をする時。<br />
<br />
芥辺をふと見てみると、彼が一瞬、自分を見て<br />
置いて行かれた子どもみたいな目をしたから、驚いたのだ。<br />
<br />
それは、気をつけていなければ<br />
分からないほどごく僅かな表情の揺れ。<br />
<br />
彼がそんな表情をするとは思っていなかったから、戸惑って、息を呑んだ。<br />
<br />
芥辺が気になって仕方ないのは、その所為だ。<br />
きっと、この気持ちは、其処から始まった。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
「&hellip;あ！アクタベさん、お疲れ様です！」<br />
<br />
さくまは、駅前に停めた車に凭れて待つ芥辺に大きく手を振った。<br />
気がついて振り向いた彼に急いで走り寄る。<br />
<br />
「遅れてすみません！教授に片付け頼まれて断れなくて」<br />
白い息をつきながら言うと<br />
<br />
「大学から連絡あったときは、まだ事務所にいたから問題ない」<br />
乗って、と助手席に座るよう促される。<br />
<br />
「わ、アクタベさんの車、外車なんですね！」<br />
<br />
黒くて渋い感じの車を見て、さくまは<br />
なんだかアクタベさんらしいな、この車。と思いながら乗り込む。<br />
<br />
<br />
「&hellip;昔、海外にいて。最初に免許取ったのが向こうだったから」<br />
<br />
自らも乗り込んで、シートベルトを締めつつ<br />
こちらの方が慣れている、と芥辺は言う。<br />
<br />
さくまは、バックミラーを調節している彼の手を、大きいなあ、と思う。<br />
<br />
「さくまさんのよくいくスーパー、何処にあるの。」<br />
<br />
俺、行ったことないから横から案内して。<br />
言って、芥辺はハンドルを回す。<br />
エンジンの掛かる音を聞きながらボンヤリとしていたさくまは慌てて、あ、はぁい、と返事をした。<br />
<br />
「へへへ」<br />
「なに」<br />
<br />
「いえ、何でもないです！」<br />
何故か、笑みが零れる。<br />
<br />
答えられるわけがなかった。<br />
何がこんなに楽しくて嬉しいのか、さくま自身、よく分からなかったのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
目的のスーパーは、特段遠い場所にあるわけではない。<br />
アザゼルやベルゼブブを連れて、徒歩でも行ったことのある小規模のショッピングモールだ。<br />
<br />
芥辺の運転は意外と丁寧で、安心して乗っていられる。<br />
信号停車中に正直にそれを伝えてみると、<br />
そこまで好き好んで自分を危険に晒す趣味はないな、と憮然とした顔で答えが返ってくる。<br />
<br />
ひとしきり笑ってからさくまは言う。<br />
<br />
「でも、アクタベさんと買い物行くことなんてなかなかないから、なんだか新鮮な感じです」<br />
<br />
「この前コート買いに連れて行かれたのは？」<br />
<br />
「んー、あの時もあれはあれで新鮮でしたけどね！<br />
スーパー、一緒に行くの初めてでしょう？」<br />
<br />
ウインカーの音がカチカチと鳴る。さくまはそれに合わせて、脈拍が早くなるような気がした。<br />
<br />
「まァ、そうだな」<br />
「でしょ？」<br />
<br />
笑い過ぎたかなあ、と心の中でそれを跳ねる鼓動の言い訳にして、<br />
さくまは納得することにした。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
一番最初は、無愛想なただのバイトの上司だった。<br />
その次は、傍若無人で、傲慢な、恐ろしい悪魔使い。<br />
<br />
何だかんだで巻き込まれて、自分も悪魔使い助手になって。<br />
<br />
彼の「その表情」に気づかなければ、<br />
こうも彼のことが気になることはなかったかも知れない。<br />
<br />
彼のことを、辛いと思うことも、苦しいと思うこともない人だと思ったままだったかも知れない。<br />
<br />
いつでも平然と、自分の道を行ける人だと。<br />
迷いもせず、悲しみもしないで生きられる人だと。<br />
<br />
<br />
でも、それは間違いだ。<br />
初めにその視線に、気がついたのはいつのことだっただろうか。<br />
<br />
&quot;寂しい&quot;　&quot;暗い&quot;　&quot;寒い&quot;　と。<br />
自分を呼ばれた気がして。ひどく戸惑って。<br />
<br />
アクタベさん！と、呼べばいつもの表情に戻るから。<br />
それから、彼の行動や表情のひとつひとつが、気になって仕方なくなった。<br />
<br />
だから、たくさん彼と話をしようと思った。<br />
<br />
他愛のない話をして。愚痴を言って。冗談を言って。<br />
表情の乏しい人だけれど、驚いたり、拗ねたり、羨ましがったり。<br />
そんなごく普通のことを。彼も感じたりするのだと、知った。<br />
<br />
<br />
一緒にいると楽しくなって。<br />
彼の行動や表情のひとつひとつが、気になって仕方なくなった。<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
「わたしも運転免許取ったほうがいいかなあ」<br />
<br />
便利ですよね色々と。<br />
車を降りながらさくまは言った。<br />
<br />
特に俺の用がなければ付き合うけどと、キーを掛けながら芥辺が答える。<br />
<br />
「そうですよね、自動車学校通うのも結構かかりますもんねぇ」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
<br />
さくまがそう言うと、芥辺はやれやれ、と呆れた顔をする。<br />
<br />
「&hellip;へ？何か私変な事言いました？」<br />
「いや別に」<br />
<br />
後部座席に置いていた灰色のマフラーを取って、彼も車を降りた。<br />
ゴソゴソとマフラーを首に巻き始めるのを見て、さくまは聞く。<br />
<br />
「すぐ店内に入っちゃうのに、マフラー巻くんですか？」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;寒いから。」<br />
<br />
白い息を吐いて芥辺は答える。<br />
<br />
「店内暖房入ってると思いますよ？」<br />
<br />
さくまは首をひねりながら尋ねた。確かに曇り空だし、凍りそうなくらい寒いとは思うが。<br />
<br />
「&hellip;いや、寒いから。」<br />
<br />
<br />
そう言って譲らない芥辺に、<br />
そんなに寒がりなら、なんでもっと前からちゃんとコートとか着なかったんですか～<br />
と　ぶつぶつ文句を言いながら、さくまは彼について歩く。<br />
<br />
ああでも、ちゃんと外に出るときは<br />
防寒着つけてくれるようになって、よかったなあ。<br />
と、にんまり笑って。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「えっと、まず目星付けてたのがジャガイモと、鶏肉だったよなー」<br />
<br />
カートを押しながら、メモを見ているさくまに<br />
芥辺は興味津々と言う様子で付いて回る。<br />
<br />
「&hellip;あ、そう言えば消臭剤と掃除用の洗剤切れかけてるんだ。<br />
アクタベさん、売り場に行って取ってきてくれませんか？」<br />
<br />
芥辺を振り返ってそう言うと、彼はキョトンとした顔で黙り込む。<br />
<br />
「ほら、アレですよ、アクタベさんがアザゼルさん踏み潰したときに<br />
私が床拭くのに使ってる洗剤と、ベルゼブブさん召喚したときにスプレーしてるやつ！」<br />
<br />
「&hellip;うん。それは知ってる。&hellip;何処？」<br />
芥辺は少しイライラしたような口調で聞く。<br />
<br />
「えっほら、天井のプレートに書いてあるでしょ？」<br />
「ああ、そうなのか」<br />
<br />
天井にかかったプレートを見て、<br />
知らなかった、というような顔で呟くものだから、さくまは<br />
でも大体は何処のお店でも天井のプレートに書いてありますよね？と聞いた。<br />
<br />
「&hellip;スーパーなんぞ、初めて来た」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;え？」<br />
<br />
一瞬聞き間違いかと思って聞き返す。<br />
<br />
だから、スーパーなんて来たことないから。知らなかった。<br />
ばつが悪そうに芥辺は言う。<br />
<br />
「だから&hellip;正直&hellip;よく分からん」<br />
「えっでも、お食事とか、お洗濯とか、どうしてるんですか」<br />
<br />
「食事は大体外食で済ますし、洗濯はクリーニングに出してるからしたことないし。」<br />
<br />
コンビニ弁当は買ったことがあるから買い物カゴを使うのは知っている。<br />
と、目を逸らしてよく分からない言い訳をする芥辺。<br />
<br />
「なんてもったいないことを&hellip;！そんな高くつくことして&hellip;！」<br />
<br />
今度教えますから自分でやってくださいもったいない！<br />
幾ら依頼で入ってくるお金がいっぱいあって<br />
お金持ちだからって駄目ですよそんなんじゃ！<br />
<br />
驚いた様な顔で、芥辺はさくまを見る。<br />
<br />
さくまは彼の想定外の生活能力のなさに驚いて、<br />
思わず声を大にしてくどくど説教を始める。<br />
<br />
そんな時、子どものおつかい番組のテーマソングが店内に流れ始めた。<br />
ひどく神妙な面持ちで聞いている芥辺に、さくまは思わず吹き出してしまった。<br />
<br />
「何だ」<br />
「だっ&hellip;、だって、ぷ、アクタベさんが！」<br />
<br />
「どうした」<br />
<br />
首を傾げて不思議そうに尋ねるその様が、更にさくまのツボに嵌ってしまう。<br />
<br />
「ぶっ」<br />
<br />
ひひ、もうダメ、だってアクタベさん！<br />
ふ、腹筋痛い！はは、もう！もう！苦し、あははは！<br />
<br />
腹を抱えて笑いだしたさくまに<br />
芥辺はいよいよどうして良いか分からず、チッ、と舌打ちをした。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
何故こんなに気になるのだろう。<br />
意外な一面を知って、親しくなったから？<br />
<br />
----それだけ？<br />
<br />
自分が何か出来るなんて思ってない。弱くて、未熟で、守られてばかりだとわかっている。<br />
<br />
それでも、<br />
<br />
辛いのなら頼って欲しい、苦しいのなら寄り掛かって欲しい、<br />
痛いのなら理解したい。何に耐えているのか、気付きたい。<br />
<br />
<br />
それが出来ないことが、悔しいのは。<br />
どうしてだろう。<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「ふー！いっぱい買えましたねー！」<br />
<br />
あー、良い買い物した！<br />
買い物袋を下げて、さくまはホクホク顔で言った。<br />
<br />
「そういえば、そのマフラーずっと巻いてましたけど、暑かったでしょ」<br />
<br />
「&hellip;少し汗かいた。」<br />
<br />
首に巻いたマフラーを少し緩めて、芥辺は答える。<br />
<br />
<br />
「やっぱりー。だから言ったじゃないですか！<br />
洗濯のしかた教えてあげますから、今回はクリーニング出しちゃだめですよ」<br />
<br />
「マフラーなんて、家で洗濯できるもんなの」<br />
<br />
「柔軟剤使えば大丈夫ですよー」<br />
<br />
<br />
<br />
駐車場を芥辺と並んで歩いていると、親子連れの子どもと目が合った。<br />
<br />
芥辺とさくまでそれぞれの手にひとつずつ下げた買い物袋。<br />
すれ違いざま、あの子の目に、自分たちがどのように映ったのか。<br />
<br />
それが気になって、かぁっ、と、顔が熱くなった。<br />
俯いて、跳ね上がった心臓に鎮まるように強く強く、念じた。<br />
<br />
<br />
ああ、そうか。<br />
すとん、と落ちるようにさくまは気づく。<br />
<br />
<br />
----だからわたしは。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
なんだ。そうだったんだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「&hellip;くまさん、さくまさん」<br />
<br />
「ひょぇ！？あ、はい！？」<br />
素っ頓狂な声を上げてしまい、変な汗をかきながら答える。<br />
<br />
「買い物袋、後ろに乗せるから。&hellip;貸して。」<br />
<br />
キーロックを外して、車のドアを開けながら、芥辺は手を伸ばしてきた。<br />
「あ、&hellip;&hellip;ありがとうございます&hellip;&hellip;」<br />
<br />
そういう風に見られててもいいや。<br />
そう思った自分に少し驚きながら、さくまは買い物袋を手渡した。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
事務所に着いてからすぐ、キッチンで買い物した食材を冷蔵庫に入れて、<br />
まとめ買いした洗剤やその他諸々を、所定の場所に片付ける。<br />
<br />
それを済ませ、さくまがコーヒーを入れて事務室に戻ると、<br />
芥辺はソファに寝転がってうたた寝をしていた。<br />
<br />
<br />
「あ」<br />
<br />
テーブルの上にコーヒーを乗せたトレイを置いて、チラとカレンダーを眺める。<br />
この後は依頼人が訪れる予定はない。<br />
<br />
<br />
<br />
(アクタベさん)<br />
<br />
そっと、声に乗せずにその名を呼ぶ。<br />
そうして眠る彼の額をそっと撫でた。<br />
<br />
(ここにいますよ)<br />
<br />
僅かに芥辺の寝顔が穏やかになったような気がして、胸の奥がむず痒くなる。<br />
<br />
(わたしは、ここですよ。)<br />
<br />
<br />
<br />
(---------アクタベさん。)<br />
<br />
(わたし、)<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
窓の外は白く霞む曇天。<br />
薄く付いた結露が、すっと流れ落ちる。<br />
<br />
キッチンのコーヒーメーカーが小さく揺れて、<br />
シンクに浸けていた食器がカチリと音を立てた。<br />
<br />
<br />
緩やかに、緩やかに、時が過ぎる。<br />
そう。今はもう少しだけ、このまま。<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>ゆにこ</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>yunico.side-story.net://entry/4</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://yunico.side-story.net/%E3%82%88%E3%82%93%E3%82%A2%E3%82%B6%EF%BC%9E%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E3%81%AE%E7%8E%8B/%E7%90%A5%E7%8F%80%E3%81%AE%E9%9B%AA" />
    <published>2012-01-23T00:17:22+09:00</published> 
    <updated>2012-01-23T00:17:22+09:00</updated> 
    <category term="よんアザ＞孤独の王" label="よんアザ＞孤独の王" />
    <title>琥珀の雪</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<a href="//yunico.side-story.net/File/kohaku.png" target="_blank"><img alt="" border="0" src="//yunico.side-story.net/Img/1327245378/" /></a><br />
<br />
<br />
自分にこんな感情があったとは。<br />
ああ、君ってやつは。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
点々と灯った橙色の街灯が<br />
ぼろぼろと降る綿雪と、薄く積もった雪道を照らしている。<br />
<br />
<br />
「うわあ、もうこんな時間&hellip;！」<br />
<br />
尾行調査が長引き、やっとひと段落ついたのは日付が変わってからだった。<br />
<br />
「疲れたぁ&hellip;」<br />
<br />
「お疲れ。&hellip;一応、送るから」<br />
<br />
時間外手当弾んでくださいね！と<br />
にまにま笑い、上機嫌のさくま。<br />
<br />
ああ、わかったわかった。芥辺がそう答えてやれば、<br />
約束ですよ！と目尻を下げて更に嬉しそうな顔をする。<br />
<br />
「現金だな」<br />
<br />
「だって、ユキチさんがいっぱいきてくれるんですから！へへへへ！」<br />
<br />
何買っちゃおうかな、新しいコート欲しいな！これからの為に貯金もしなきゃだし！<br />
今後の予定を組み立て始める彼女に、芥辺は借金の返済も忘れるなよと釘をさしておく。<br />
<br />
「アクタベさんのいじわる&hellip;」<br />
途端にしかめっ面をして睨め付けても、<br />
怖くもなんともないので、聞こえない振りをした。<br />
<br />
「あ」<br />
<br />
さくまは芥辺の肩に積もった雪に気が付き、軽く払う。<br />
そして、今日ほんと寒かったですよね～、と<br />
冷えて赤くなった手を揉みながら吐く息で温め始める。<br />
<br />
「&hellip;真っ赤だな」<br />
<br />
「だってほら、写真とか撮る時に手袋付けてたら上手く扱えないですし。<br />
女の子は冷えやすいんですよ。大変なんですよ？」<br />
<br />
どれだけ冷えてんだと、単なる興味でその手を握ってみる。<br />
そして思ったよりずっと冷えたその手に驚く。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;確かに冷たい」<br />
<br />
意識して人の手など握ったことなどなかったから、その冷たさに不安になる。<br />
<br />
「ああでも、アクタベさんの手あったかいですね！<br />
アクタベさんだって手袋つけてなかったのに。体温高いんですか？はぁ、ほんとぬくい～」<br />
<br />
「そう？　&hellip;さくまさんの手が冷えてるからじゃないの」<br />
<br />
さくまは、日向で寝る猫の様に寛いだ顔で、にへらと笑った。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
彼女はよく笑う。<br />
よくそんなに楽しいことがあるものだな、と感心する。<br />
思わず僅かに笑みがこぼれた。<br />
<br />
金好きで、強欲で、そのくせこんなに簡単に与える。<br />
笑顔を、思いを、言葉を、思った通りに吐き出してくる。<br />
良くも悪くも素直で。隠しごとが下手な女。<br />
<br />
<br />
人間を観察していて、良い意味で楽しいと思えたのは初めてのことじゃないだろうか。<br />
<br />
誰かをずっと見ていたいと思ったことなど、<br />
今までただの一度たりとてなかったのだから。<br />
<br />
<br />
<br />
街灯は変わらず冷えた橙色の光を注ぎ、琥珀に染まる雪は依然として降り続ける。<br />
<br />
遠くで微かにクラクションの音がする。<br />
ひどく、静かだった。<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
(こんにちはぁ)<br />
<br />
<br />
それはまだ、探偵の仕事を始める前のこと。<br />
世界中を巡りながら、グリモアを探す旅。<br />
<br />
確か、今と同じ寒い季節のことだ。<br />
<br />
<br />
(ねぇねぇ、こんにちはぁ)<br />
<br />
そんなある日、芥辺はしつこく自分を呼ぶ少女と出会った。<br />
遠くで子どもの喚く声や、枯れた葉の擦れる音がしていたから、<br />
多分公園か何処かでだろう。<br />
<br />
<br />
俺に話し掛けるとは子どもの中には珍しい奴もいたもんだ、と芥辺は思った。<br />
子どもには見た瞬間泣くか震えるか怯えて逃げ出すかの反応しかされたことがなかった。<br />
しかし、そのしつこさが正直鬱陶しくて、イライラしながら無視し続けた。<br />
<br />
(おとなり、すわってい？)<br />
<br />
読んでいた本から目を離さず、勝手にしろ、と告げた。<br />
お前に近づく子どもなど初めて見たと、連れていた悪魔も珍しそうに少女を見ていた。<br />
<br />
<br />
(おじさん、このぬいぐるみさん、おともだち？)<br />
<br />
<br />
---悪魔が見えている？<br />
<br />
その言葉に、一瞬目を見開いた。<br />
振り返って初めてまともに子どもの顔を見る。<br />
<br />
吃驚したのか、いかにもどんくさそうによろけながら、<br />
少女はにへら、と嬉しそうに笑った。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
「そういえば、この前のコートとマフラーちゃんと着てくれたんですねえ」<br />
<br />
<br />
先日の行方不明者の所在調査依頼の際に、<br />
さくまから散々防寒具を身につけろと言われ続け、芥辺は半ば無理矢理に店に連れて行かれた。<br />
<br />
「さくまさんがしつこく買えと言うからな」<br />
<br />
次から次へとあれやこれや試着させられて、最終的に買うことになったのが、<br />
芥辺が現在着用している灰色のマフラーと、厚手の黒いトレンチコートという訳だ。<br />
<br />
<br />
<br />
「絶対あの恰好は冬のスタイルじゃないです！<br />
あのときだって自分でも凄く寒いって言ってたじゃないですか！」<br />
<br />
どうですいますっごくあったかいでしょ！違うでしょ！<br />
<br />
「&hellip;まあね」<br />
<br />
二人はさくさくと雪を踏み締めながら歩く。<br />
&hellip;確かに温かい。<br />
<br />
「私の見立ても捨てたもんじゃないですよねぇ。良くお似合いですよ！」<br />
<br />
芥辺はそういう時は普通プレゼントしてくれるものじゃないの、と聞いてみる。<br />
<br />
「ダメです。女性の冬は色々と物入りなんですよ」<br />
<br />
なるほど。彼女らしい。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
******<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
終わりの見えない命に、<br />
飽きたことは一度や二度ではない。<br />
<br />
<br />
<br />
期限の失われた寿命を取り戻す事が、グリモア探しの理由のひとつでもあった。<br />
悪魔召喚の方法以外にも役立つ術の記載がある事が多いからだ。<br />
<br />
だが、何百年掛けても、<br />
その方法は杳として知れなかった。<br />
<br />
<br />
初めて自分を怖がらない子どもに出会ったあの日。<br />
<br />
死ぬ方法を探すより、自分と同じ期限のない寿命を持つ者が、<br />
&quot;もうひとり&quot;いたなら、少しは飽きずに楽しめるのではないかと考えた。<br />
<br />
その瞬間、我ながら素晴らしい考えだと<br />
背筋がぞくぞくする感覚を味わった。<br />
<br />
<br />
思い立ったら即実行とばかりに、少女の額に人差し指を当て、呪文を一言詠唱する。<br />
大人になったら、また自分のところに現れるように。<br />
<br />
自分と同じように、この子どもの寿命の期限を奪ってやろう。<br />
泣かれても、わめかれても、恨まれても、構いやしない。<br />
自分に出会ったことが運の尽きと。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
暗い。<br />
暗い。<br />
ここは、寒い。<br />
<br />
<br />
<br />
少年は、ひとりでひたすら本を読み漁った。<br />
誰も来ないその部屋で、来る日も、来る日も。<br />
<br />
ページを捲り続けた。子どもとは思えないような荒れた手で。<br />
ひたすら。ひたすら。<br />
<br />
着ている服も、与えられた食事も充分なはずだった。<br />
家柄だけは無駄に良かった。<br />
<br />
それでもその部屋は酷く寒かった。<br />
<br />
腹が減れば呼び鈴を鳴らせばいい。<br />
寒ければ無駄に広い寝台に登ればいい。<br />
<br />
それでもその部屋はただただ寒かった。<br />
<br />
<br />
足りない。足りない。<br />
これじゃない。これじゃない。<br />
<br />
<br />
正体の分からない飢餓感を埋めるために、何かに憑かれたようにページを捲る。<br />
どんな本でも良いから、情報でその飢餓感を上書きしてしまいたかった。<br />
<br />
物足りなさを埋める方法など、<br />
本に齧り付く以外に知らなかった。<br />
<br />
<br />
<br />
----何が足りないのか。<br />
----何が足りなかったのか。<br />
<br />
彼には、気が遠くなるほど時間がたっても理解出来なかった。<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
「アクタベさん、アクタベさん」<br />
<br />
信号待ちの途中、芥辺がボンヤリとその赤い光を眺めていると、<br />
さくまがコートの袖をちょいちょいと引っ張る。<br />
<br />
「そういえば、そろそろイケニエの材料が足りなくなりそうなんですよ。<br />
特に依頼もなかったし、明日あたり買いに行きたいんですけど<br />
アザゼルさんかベルゼブブさん、召喚して連れて行ってもいいですか？」<br />
<br />
ソロモンリング解いてもらえればいい荷物持ちになってくれますもんね、<br />
と、白い息を吐きながらさくまは言う。<br />
<br />
「月一の特売日でジャガイモと鶏肉安いんですよー」<br />
<br />
「&hellip;ふぅん」<br />
<br />
いいんじゃない<br />
そう答えようとして、ふと考えを変える。<br />
<br />
「たまには車だそうか」<br />
<br />
「えっ、アクタベさんって車持ってるんですか？！」<br />
<br />
<br />
<br />
驚く彼女に、偶にしか乗らないけど、と答える。<br />
<br />
うわ、アクタベさんどんな車乗ってるのかすっごい興味ある&hellip;！<br />
と、目を輝かせながら完全に筒抜けの独り言を言うさくま。<br />
<br />
やっぱり面白い、と芥辺は思った。<br />
<br />
なぜこうも自分に興味を持ち、<br />
自分のことでこんなに楽しそうにするのだろう、この女は。<br />
<br />
そうこうしている間に、信号が変わって<br />
足を進めながら彼女を振り返る。<br />
<br />
「&hellip;どうする？」<br />
<br />
「わー！じゃあおねがいします！」<br />
<br />
<br />
スタスタと歩く芥辺の歩調に合わせるように、急いで小走りについてくるさくま。<br />
ふと気がついて、歩調を緩めてみる。<br />
やっと隣に追いついてきて、さくまはまた、へへ、と笑う。<br />
<br />
<br />
<br />
足りなかった何かが埋まって行く。<br />
<br />
<br />
初めは、珍しくて飽きそうになかったから。<br />
ただそれだけで隣に置こうと思った。<br />
<br />
その次は、彼女の人並み以上の才能に気付いたから。<br />
傍に置いておけば、役に立つと思った。<br />
<br />
だが今は。<br />
失くしてはいけない気がして。<br />
失えば二度と、この何かを埋めることは出来ない気がして。<br />
<br />
気づけば、失うのがひどく恐ろしくなっていた。<br />
<br />
<br />
最初は、死ぬ方法を探すより、自分と同じ期限のない寿命を持つ者が、<br />
&quot;もうひとり&quot;いたなら、少しは飽きずに楽しめるのではないかと考えた。<br />
<br />
いつしかそれは、失わないで済む方法に変わっていた。<br />
<br />
<br />
<br />
自分の考えを知ったとき、彼女はどう思うだろうか。<br />
軽蔑？嫌悪？　&hellip;それとも。<br />
<br />
「その時」のことを考えるとぞっとした。<br />
ひどく自分らしくない思考だとは自分でも分かっている。<br />
<br />
彼女はどう思うだろうか。<br />
今自分に向けられた、その笑顔は？<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
「すみません、家まで送ってもらっちゃって。」<br />
<br />
「別にいいよ。お疲れ。」<br />
<br />
彼女に返事をして、芥辺は足を止めた。<br />
<br />
アクタベさんも、気をつけて帰ってくださいね。<br />
言って、さくまはワンルームの自室へと帰って行く。<br />
<br />
階段を登りきるのを見届けて帰路へ就こうとしたとき、上から声が降った。<br />
<br />
<br />
<br />
「アクタベさん！じゃあ、また明日！」<br />
<br />
<br />
<br />
芥辺はそっと手を振っている彼女を見上げて、軽く手を振り返す。<br />
<br />
吐き出した白い息が、<br />
凍る様な冷たい空気に溶けて消えた。<br />
<br />
街灯の橙色の光が、暗い空に波紋のように広がり、<br />
琥珀の雪は、絶えることなく降り続ける。<br />
<br />
キシ、と踏み締めた冷たさに、彼はそっと息を呑んだ。<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>ゆにこ</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>yunico.side-story.net://entry/3</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://yunico.side-story.net/%E3%82%88%E3%82%93%E3%82%A2%E3%82%B6%EF%BC%9E%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E3%81%AE%E7%8E%8B/%E5%8D%97%E5%A4%A9%E3%81%A8%E9%9B%AA%E3%80%81%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%81%AF%E5%BD%BC%E3%81%8C%E6%9C%9B%E3%82%93%E3%81%A0%E5%85%B1%E6%9C%89%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%97" />
    <published>2012-01-23T00:15:15+09:00</published> 
    <updated>2012-01-23T00:15:15+09:00</updated> 
    <category term="よんアザ＞孤独の王" label="よんアザ＞孤独の王" />
    <title>南天と雪、または彼が望んだ共有のはなし</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<a href="//yunico.side-story.net/File/nanten.png" target="_blank"><img alt="" border="0" src="//yunico.side-story.net/Img/1327244986/" /></a><br />
<br />
<br />
<br />
乏し過ぎるその表情の奥に、<br />
確かに見えたそれは、<br />
懇願にも似た、<br />
<br />
<br />
<br />
-------<br />
<br />
<br />
<br />
その日の依頼は、行方不明者の所在調査依頼だった。<br />
依頼主は、行方不明になった男性が育った児童養護施設の施設長だ。<br />
<br />
寒い中本当に申し訳ありませんでした、<br />
と恐縮する施設長に、近くで別件の調査もありましたので、<br />
お気になさらず、と言いつつ事情を聴く。<br />
<br />
男性はこの施設で育ち、何年も前に独立して巣立っていった。<br />
施設を出た後も、施設長を慕っていた彼は度々この施設を訪れていたという。<br />
そんな彼が消息を絶ったのが5年前。<br />
警察に捜索願を提出しはしたが、結局手がかりは見つからず、<br />
施設長も手を尽くしたが未だに安否不明の状態。<br />
最後の頼みの綱として探偵に依頼をすることにしたのだという。<br />
<br />
<br />
----何も告げずに居なくなる奴じゃないんですよ。<br />
<br />
<br />
施設長の話した、行方知れずの教え子との思い出。<br />
このひとは、本当に彼の事をわが子のように思っているんだな、と<br />
容易に想像が出来た。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
施設の建物を出た瞬間、喉が痛くなるほどの冷たい空気に息を呑む。<br />
中庭の薄く雪を被った南天の実が、目に鮮やかだった。<br />
<br />
「なんとかしてあげたいですね&hellip;」<br />
<br />
思い詰めたような施設長の表情が印象に残り、さくまはぽつりとつぶやいた。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
<br />
「アクタベさん？」<br />
<br />
ボンヤリと遠くを見るような表情の芥辺。<br />
<br />
(うわっ、もしかしてアクタベさん、今回の依頼がドロッとした内容って言うより<br />
真っ当な内容だったからがっかりしてるのかな&hellip;！)<br />
<br />
「&hellip;今物凄く失礼な事を考えたりしなかったかさくまさん」<br />
<br />
「えっ？い、いやだなあアクタベさんそんなわけないじゃないですかー」<br />
<br />
思い切り挙動不審になるさくまを見て、芥辺は軽く舌打ちをする。<br />
<br />
<br />
「あ、南天だ。綺麗ですねぇ」<br />
<br />
柔らかそうな大粒の綿雪が<br />
次から次へと灰色の空から降ってくる。<br />
<br />
はぐらかしたな、と思いつつ、それ以上は突っ込まないでおいてやる。<br />
<br />
<br />
「まだ積もるのかなあ&hellip;」<br />
<br />
「さくまさん。薄く積もってる。滑るなよ。」<br />
<br />
芥辺は両手をスラックスのポケットに突っ込んで、玄関口の階段を降りつつ言う。<br />
<br />
「あ、はい。」<br />
<br />
「ん。」<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
茫洋とした、孤独。<br />
暗い部屋で書物を読み漁る日々。<br />
始まりは、偶然見つけた一冊の魔導書。<br />
<br />
それは、気が遠くなるほど昔の話。<br />
<br />
<br />
<br />
とある国の支配階級に生まれた少年がいた。<br />
<br />
両親は彼に全く興味を示さず、<br />
生活に困らなければ良いだろうとばかりに<br />
子どもが使うには莫大な金額の財産を与え、<br />
屋敷に閉じ込めて、世話の一切は使用人に任せきりにした。<br />
<br />
彼は普通の子どもとは違っていた。<br />
<br />
周囲の誰も相手にせず、また、誰からも気味悪がられ。<br />
屋敷にある膨大な数の書籍を教師に育ち、<br />
聡明で大人にも難しい内容の書籍や論文を貪り食うように読んだ。<br />
<br />
<br />
ある日彼が見つけたのは一冊の本。<br />
<br />
<br />
その本が「魔導書」と呼ばれる物であることは<br />
頭の中に蓄積された膨大な知識から、すぐに理解することが出来た。<br />
<br />
悪魔召喚か、悪くない。<br />
この狭い世界には、いい加減飽き飽きしていた。<br />
<br />
<br />
ニヤリ、と彼はおよそ子どもとは<br />
もとい人間とは思えないような顔でほくそ笑んだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「この辺の家って、庭に南天植えてる所が多いみたいですねぇ」<br />
<br />
次の依頼先へ向かうための道すがら、さくまはぽつりと呟く。<br />
<br />
「魔よけじゃない」<br />
<br />
「そうなんですか？」<br />
<br />
「うん。難を転ずるに通じるから、縁起がいいんだと。<br />
だから魔よけとして植えるんだ。」<br />
<br />
「うわぁ、じゃあアザゼルさんたちは入れなかったりして！」<br />
<br />
「まさか」<br />
<br />
<br />
さくまは芥辺との雑談が好きだ。<br />
彼の豊富な知識、雑学は為になるし、おもしろい。<br />
<br />
法律関連の話などは実例や実体験を交えて話してくれるので<br />
とてもわかりやすく、試験のときにも役立っている。<br />
<br />
<br />
ちらり、と芥辺のほうを見ながら<br />
こんなに豊富な知識を一体どこで覚えて来たんだろう、<br />
とか、どういう人生を送ってきたんだろう、と思う。<br />
<br />
このバイトを初めてしばらくたつが、未だに謎の多い人だ。<br />
<br />
<br />
ふと、彼の耳元に目をやった。<br />
<br />
あ、耳赤くなってる。<br />
平気そうにしてたけど、やっぱ寒いんだなあ。ふふ。<br />
<br />
ひとつ、人間らしいなと<br />
思うところを見つけて嬉しくなった。<br />
<br />
<br />
「アクタベさん、アクタベさん」<br />
<br />
彼が振り返った一瞬の隙に、無理矢理彼の首に巻いたのは、<br />
男性には可愛すぎるふわふわの赤いマフラー。<br />
<br />
「へへへ。」<br />
<br />
寒いでしょ。ちょっとの間だけでいいから巻いててください。ね。<br />
言って、ニカ、と笑う。<br />
<br />
<br />
「いいよ。さくまさんこそ巻いてれば？」<br />
<br />
言ってマフラーと取ろうとするが、<br />
<br />
「あっ、ダメダメ！わたしならコート着てるから大丈夫ですよー。<br />
ほら、襟も付いてるタイプですし。<br />
アクタベさん、こんなに寒い中でもスーツしか着てないんですもん。」<br />
<br />
見てる方が寒いんですよ。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
<br />
芥辺は何か言いたげに黙り込むが、<br />
やがて根負けしたように大きく溜息をつくと、<br />
<br />
「分かった分かった」<br />
<br />
とさくまの頭を撫でた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「そういえば」<br />
<br />
さくまはこの機会だからと、<br />
すごく気になっていた事を尋ねてみることにした。<br />
<br />
「小さいころのアクタベさんって、どんな子だったんですか？」<br />
<br />
<br />
芥辺は歩みを止めることなく行く。<br />
赤いマフラーを緩く靡かせて。<br />
<br />
「----さあ、どうだったかな」<br />
<br />
キシ、と雪を踏みしめる二人分の足音。<br />
<br />
「本ばかり読んでたよ。」<br />
<br />
<br />
<br />
&quot;寂しい&quot;<br />
<br />
数歩先を行く彼の背中をみて浮かんだのは何故か、<br />
彼に一番似合わなそうな言葉だった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
(うるさい。御託はいらん。俺が退屈しないようにしろ。)<br />
<br />
少年は、およそ子どもとは思えないような高飛車な物言いで異形の者に命令をする。<br />
<br />
悪魔は、彼に今まで知らなかった知識、今まで知らなかった世界を与えた。<br />
<br />
そして一番良いのは、悪魔たちが自分を気味悪がったりしないことだ。<br />
鬱陶しいと感じることはままあるが、<br />
あからさまな悪意を向けられることもなければ<br />
それを感じてドス黒い気持ちに支配されることもない。<br />
<br />
悪魔は、彼に新しい世界を与えた。<br />
そしてこの日から少年は、魔導書の研究に傾倒していくことになる。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
研究に没頭し、気が付いたときにはかなりの年月が過ぎていた。<br />
その間には、様々な事があったはずだがあまり興味がなかった。<br />
<br />
彼が望まずも父の跡を継ぎ支配者になった頃。<br />
時間の流れから取り残されて死ねない身体になった。<br />
<br />
十中八九、彼が手を染めた儀式の影響であることは分かっていた。<br />
<br />
<br />
最初は特に気にも留めなかった。<br />
次から次へと情報を貪れば、気が付きもしなかったから。<br />
<br />
時代が流れて、流れて、<br />
自分が<br />
すべてに<br />
置いていかれることを<br />
知るまでは。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
「ふぅん、アクタベさんって、<br />
ちっさいころから本好きだったんですね～」<br />
<br />
結局、芥辺は当たり障りのないように<br />
やや捏造を交えて幼少時代の話をすることにした。<br />
<br />
両親とは疎遠だったが、本に囲まれて育ち、世界に興味を持ったこと。<br />
探偵という職業に興味を持ったのも、昔に読んだ小説がきっかけだったこと。<br />
<br />
<br />
「インドア派だったとか、意外です」<br />
<br />
だってアザゼルさんやベルゼブブさんに制裁を加えるときの動き見てたら、ねぇ～。<br />
<br />
と、さくまは楽しそうにうんうんと頷く。<br />
<br />
<br />
「そんなに俺の少年時代の話に興味があるのか」<br />
<br />
「へへ、だってアクタベさんってかなり謎なんですもん」<br />
<br />
芥辺は二の句を継げなかった。<br />
<br />
「知らなかったアクタベさんの意外な一面を知れて、嬉しいです。」<br />
<br />
強欲で未熟で何処か抜けているこの助手は、<br />
まるで邪のない顔で心底嬉しそうに笑った。<br />
「&hellip;&hellip;そう。」<br />
<br />
さくまさん、だから君は、俺に付け込まれるんだよ。<br />
<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
不老不死の王は、表向き賢明な王を演じた。<br />
だが心中では人の心の醜さを見下し愚かさを嘲笑った。<br />
悪意を向けあい、悪意に忠実な人間たちの、何と滑稽な姿。<br />
<br />
夜になれば自室から地下の書斎に籠り、<br />
悪魔に囲まれて召喚の研究に没頭する日々。<br />
<br />
<br />
やがて、国の中にある書籍を読み尽してしまうと<br />
とうとう乾いていく心に向き合わざるを得なくなった。<br />
何かが、根本的な何かが足りなかった。<br />
<br />
<br />
そしてあるとき、彼は自らの死を装い、国から姿を消した。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
----それから何千年か経った頃。<br />
<br />
世界中を巡る黒服の男がいた。<br />
彼はかつて遠い昔に王と呼ばれたその人だった。<br />
彼はその国で、小さな少女を見つけた。<br />
少女は、彼が傍らに従える悪魔を見て、<br />
こんにちはぁ、とにへらと邪のない笑顔で挨拶をした。<br />
<br />
<br />
ああ。<br />
<br />
そうだ、と彼は思う。<br />
<br />
こんな奴が傍にいるのも面白いんじゃないか。<br />
<br />
自分と同じ時間を生きる奴が<br />
居ても面白いんじゃないか。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
遠くから彼女の成長を見守り、<br />
彼女が可愛らしい大人の女性になったころ<br />
<br />
彼は彼女が自分と再会する様に細工をした。<br />
<br />
<br />
*****<br />
<br />
<br />
<br />
芥辺はふと、小さな赤い実をたわわにつけた一枝に手をかける。<br />
それは割と簡単にパキ、と乾いた音を立てて折れた。<br />
<br />
「あ、ダメですよ人様の庭の木の枝勝手に折っちゃ&hellip;」<br />
<br />
君は、俺が何をしようとしているか知らない。<br />
君から何を奪おうとしているかわかってない。<br />
<br />
「大丈夫。」<br />
<br />
<br />
<br />
すべてを知ってもなお、<br />
君は受け入れてくれるだろうか。<br />
<br />
<br />
何が大丈夫なんですか～、と辺りを見回しながら<br />
もう、怒られても知りませんからね、<br />
と唇を尖らせるさくまに、手折ったその一枝を手渡した。<br />
<br />
<br />
「え？えと、&hellip;ありがとうございます？」<br />
<br />
<br />
君はまだ知らなくていい。<br />
俺の考えも、その枝が持つ意味も。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「あのう、アクタベさんに、<br />
こんなこと言うの、おかしいと思うんですけど」<br />
<br />
「なに」<br />
<br />
「今日のアクタベさん、なんか変です」<br />
<br />
「何が」<br />
<br />
「んー、何が、と言われると困るんですけど」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
---わたし、アクタベさんの味方ですからね。<br />
未熟者ですけど、少しくらいは、頼ってくださいよ。<br />
<br />
<br />
芥辺はさくまを振り返ると、虚を突かれたような顔で見つめた。<br />
そうして、腹の底から声を上げて、ひどく可笑しそうに笑った。<br />
<br />
らしくない。<br />
らしくなさすぎる。<br />
<br />
<br />
「じゃあ」<br />
物凄く寒いから手を握ってくれないか。<br />
言って無理矢理さくまの手を掴んだ。<br />
<br />
「あの、えっと、アクタベさん？」<br />
<br />
<br />
<br />
強く強く自分の手を握り締め続けるその手が、まるで縋り付くようで。<br />
だからさくまは、何も言わずに握り返した。<br />
そして、彼に合わせて歩きだした。<br />
<br />
<br />
<br />
「もう、だからコートぐらい着たほうが<br />
いいって言ったじゃないですか！」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<font color="#4682b4">---------------------------これは、南天の花言葉から着想したお話です</font><br />
<br />
]]> 
    </content>
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            <name>ゆにこ</name>
        </author>
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    <published>2012-01-22T23:57:44+09:00</published> 
    <updated>2012-01-22T23:57:44+09:00</updated> 
    <category term="よんアザ＞SS" label="よんアザ＞SS" />
    <title>やらないったらやらない</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[※注意：パパタベです<br />
<br />
<br />
とある冬の昼過ぎのこと。<br />
佐隈が昼食の洗い物を終えると、外から何やら声がした。<br />
何だと気になって表に出てみると、近くの電信柱の前で賑やかに騒いでいる我が子と夫の姿が見えた。<br />
<br />
「やっ！とー！てやー！」<br />
<br />
トテトテとふらつきながら電信柱を蹴っている息子。<br />
ネコ耳の毛糸帽と、お揃いの色のミトン。履いているのは下ろしたてのちいさな靴。<br />
よっぽど嬉しいのか、暇さえあれば散歩に連れて行けとせがむ。<br />
<br />
芥辺は、時々頷きながら足元の我が子を見ている。<br />
その姿はとても微笑ましく、佐隈は陰から見ながら思わず噴きだした。<br />
<br />
<br />
「お前、母さんのこと好きか」<br />
ミトンの両手を振り回しながら無心に電信柱を攻撃する息子に、芥辺はそう問いかける。<br />
<br />
「違うな、もっと効果的に攻撃するなら、こうだ」<br />
芥辺はスラックスのポケットに手を突っ込んだまま、軽く電信柱を蹴り払う。<br />
かなり大きな音がして、佐隈は破壊しやしないかとヒヤヒヤする。<br />
<br />
「うん！かーしゃすきー！」<br />
「いいか、母さんをいじめる奴が居たら容赦なく倒すんだ」<br />
<br />
一体何を教えているんだろう。<br />
<br />
「かーしゃぼくのだからわるいやつにはあげないのー」<br />
息子はふっくらしたほっぺたを赤くしてにへらと笑って返事する。<br />
<br />
「さくまさんは俺の。だからお前にはやらん」<br />
<br />
「ぼくのよー」<br />
「ダメだ」<br />
<br />
えー、と文句を言う息子に、芥辺は真顔で言い聞かせている。<br />
そのいつもと変わらないぶっきらぼうな顔。その頬もまた、息子と同じように寒さで赤くなっている。<br />
嬉しいような恥ずかしいようなこそばゆい感覚に鼻を掻いた。<br />
<br />
<br />
「ふたりともー、お茶にしますよー」]]> 
    </content>
    <author>
            <name>ゆにこ</name>
        </author>
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    <id>yunico.side-story.net://entry/1</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://yunico.side-story.net/%E3%82%88%E3%82%93%E3%82%A2%E3%82%B6%EF%BC%9Ess/homebound" />
    <published>2012-01-22T23:49:28+09:00</published> 
    <updated>2012-01-22T23:49:28+09:00</updated> 
    <category term="よんアザ＞SS" label="よんアザ＞SS" />
    <title>Homebound</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[金曜日の夕方。<br />
道の向こうに紫色の空が広がる街を、芥辺は足早に歩く。<br />
<br />
夜に染まり始める街にはぽつぽつと灯が灯り始めている。<br />
雑踏の中に飲食店の匂いや話し声。<br />
<br />
珍しく仕事が早く片付いたので、駅前の本屋にでも寄ろうかと考えながら腕時計に目を遣った。<br />
顔に吹き付ける風が切る様に冷たい。流石に年末のこの時期は冷える。<br />
身に纏った黒いコートを掻き合わせながら、出かけ際に手袋を持つように勧められたことを思い出し、<br />
断らなければ良かったかと少し後悔する。<br />
<br />
吸い込んだ空気が更に体温を奪い、喉の奥へと侵食していく。<br />
指を温めるように擦って、スラックスのポケットに掌を突っ込むと<br />
帰路を急ぐ人の群れの中を、器用に潜り抜けた。<br />
<br />
不意に鳴りだした携帯の着信音。<br />
ディスプレイには見慣れた名前が表示されていた。<br />
慣れた手つきでボタンを押す。<br />
<br />
「&hellip;もしもし」<br />
<br />
<br />
『とーしゃ！』<br />
電話口に響く大きな声に驚き、耳から携帯を離す。<br />
こんな喋り方をする人間は自分の周りにはひとりしかいない。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;今どこにいるんだ？」<br />
『も、ただまするー？』<br />
<br />
そろそろ帰宅するのかと聞きたいらしい息子の声に、苦笑する。<br />
妻に良く似た碧色の瞳を丸くして訊ねるさまが目に浮かぶ。<br />
<br />
はたから見ても誰も分からないような微妙な表情の変化だった。<br />
電話の後ろから、「お疲れさまは？」と小さく声がしたので、芥辺は息子に訊ねた。<br />
<br />
「ああ、ただいまする。今どこだ。事務所か。」<br />
『かーしゃとねぇ、べーやとあーちゃといるー。』<br />
<br />
いまいち的を射ていない息子の返答から状況を推測しつつ、携帯を持ちかえて訊ねた。<br />
<br />
「どうした？何か用か？」<br />
『でんわひとりでできたー。かーしゃにおしえてもらったの。』<br />
<br />
えらい？と得意げに尋ねる声。<br />
えらいえらいと棒読みで答えると、誇らしげに笑う。その後ろからは騒がしく賑やかな声。<br />
『かーしゃももしもしする！』<br />
『あ、かわっていいのー？』<br />
<br />
息子に代わって電話口に出た声は、笑いを堪える様に震えていた。<br />
悪戯が成功したかの様な楽しげな声だ。<br />
<br />
「&hellip;りん子さん」<br />
<br />
『あ、私が電話かけようとしたら、代わりにかけるって聞かなかったんですよー』<br />
びっくりしたかと訊ねるので、それなりに、と答えておく。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;ところで、用件は？」<br />
<br />
行きかう車の音や、横断歩道の信号音で、時々聴き取りづらくなる声に耳の神経を集中する。<br />
<br />
『はやく声が聞きたかっただけです』<br />
「は？」<br />
<br />
『とーしゃ！！！にくじゃがー！』『今日は肉じゃがですよ』<br />
『肉じゃがやー！！』『カレーが良かったんですがね！』<br />
電話の向こうが騒がし過ぎて、用件も、電話の理由も良く分からなかったが<br />
何だか楽しそうな声だったので、やれやれと軽く溜息をついた。<br />
<br />
『とーしゃ、ただまするー、ただまするよー！！』<br />
電話の後ろで息子が悪魔達に繰り返し教えている。<br />
半ば呆れ気味にわかったわかったと答えている声がした。<br />
<br />
『事務所にいますから。早く帰ってきてくださいね、待ってますから』<br />
あなた、とぼそぼそと絞り出すように呟かれた言葉に噴きだすと、既に電話は切れていた。<br />
<br />
<br />
暫く携帯を眺めてから、独りごちる。<br />
ああ、早く帰ろう。<br />
<br />
思ってもみなかった場所が、ある。<br />
昔の自分が見たらいったいどう思うのだろう。<br />
<br />
ひどくこそばゆい感覚に頭を掻いた。だが、不思議と悪くないものだ。<br />
待っているひとがいる、というものは。<br />
<br />
<br />
さあ、もうすぐ帰るから。<br />
]]> 
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            <name>ゆにこ</name>
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